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第4回 蚊を殺すのにバツーカ砲

今年3月、宮城の鳴子温泉で「湯守の森会議」が行われ、そこで「里山循環社会の実現」について真面目な会議が行われた。ぼくもそこの講師として招かれ、可能な限りわくわくできる未来の提案をしてきた。しかしその甲斐なく話題をかっさらってしまったのは「林業女子」の話だった。最近、どの分野でも女子の活躍がめざましい。林業も例外ではなく、しかもその方法が伸びやかで面白いのだ。
 特に面白かったのは青森県で薪ストーブの販売などをしている石村さんだ。石村さんはいう。
「女子だから森林組合にも出入りしやすいし、トラブルにもならない」
「大きな林業には男が向いているけど、内職みたいに小さな林業だって必要でしょう? そこには女子の方が向いている」と。
 彼女はこの冬、販売した薪ストーブに薪を届けるために、トレーラー一台分の雑木を調達して玉切りした。玉切りというのは木を40~50センチに切断することだ。その後に割って薪にする。「切断断面積なら青森県イチ」と自己紹介する石村さんだが、こんなことを始めたのはひょんなことだった。たまたま家を建てようとして出会った工務店が、山に来ることを条件とし、そこでどれほど山の木々がムダにされているのか知らされたのだ。
「どの木を使いたいですか?」
石村さんは即座に選べなかったが、彼女の娘が一本一本触れて『この木がいい』と決めた。すると「じゃ、切り倒しましょう」という。娘は『かわいそうだからやめて!』とギャン泣きしているにもかかわらず切り倒し、「木を使うのはこういうことなんです」と説明する。しかも切り倒すのに支障になる他の木まで切り倒す。
「この木は何に使われるんですか?」
「その木は使われません。買値がつかないですから捨てられたままです」と。
『帰り道は森を見るたびに泣けて泣けて』と話す彼女は、若干の心的外傷後ストレス障害(PTSD)になっていたのだと思う。ちょっと意地悪だけど、林業の現実は本当に悲しい状態だ。そして石村さんは、山を活かすことを決意した。普通なら捨てられてしまう広葉樹も、薪だったら活かせる。山の木材を使えばカネになるから捨てられなくなる。小さな内職のような木材利用だって山を活かすことにつながると。
 ここからは彼女持ち前のおふざけと明るさが出てくる。青森の林業女子グループを作ったが、その名も「人妻林業(ハート)」だ。ハートマークが表示できないのが残念だが、オジサンが喜びそうなデザインなのだ。そのマークはチェーンソーなど林業機械メーカー「ハスクバーナ」のマークに似ている。ハスクは四角の中にHと書かれていて、その上側に「学」や「労」のような冠(これは冠ではないそうだが)がついている。人妻林業のマークでは、この「三つの点」が四角の上だけでなく左右にもついている。それがどうにもサザエさんの頭の形に見えるのだ。そして「人妻林業(ハート)」の文字、それで来られたらどんないかついキコリでもへなへなになってしまうだろう。

実際、女子林業には大きな可能性がある。これまでの林業は効率と省力化を求めて大規模化し、蚊を殺すのにバツーカ砲を打つような状態になっていた。カネにならない木は邪魔者でしかなく、山はただの工場にされてしまっていた。しかし山を活かすにはきめ細かく小規模化した方がいい。林業が儲からないものとされたのは農業と同じ理由だ。農業では農協が中心となって効率重視、大規模化と省力・機械化を進めて高い農機具ばかり買い、その借金と物理的な重さ、化学肥料などのせいで知恵も土も固まってしまった。林業も同様に「効率重視、大規模化と省力・機械化」と進んだ結果、山には高速道路並みに固めた道路がないと機械を運べない状態になった。そして山は道から崩れたのだ。
 しかし女子林業のような小規模型林業が中心になると、力任せのやり方からそれぞれの土地や雨風の状態に合わせたきめ細かな林業になる。小さな機械とムダのない使い方で林業を進めたら、広葉樹も活かせて他の生物たちの領分も侵さず、長期の視点の林業となって山を復活させられるかもしれない。そんな可能性を秘めているのだ。
明るい森
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