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第25回 暮らしに家を合わせる

家事の仕方に合わせて

 実はぼくは料理が好きだ。と言っても名前のあるような料理は作れない。ただ目の前に素材があって食べたいと思えば、こんな味付けにしようかなと料理法が浮かぶのだ。かつて会社員をしていた頃、毎日仕事を終えて家に帰ると料理をしていた。それでも毎日作りたい料理が浮かぶわけもない。「料理スランプ」に陥ると、仕事中も朝から晩まで考えているのに何を作ったらいいか全然浮かばない。当然食欲もイマイチない。そんな時期に助かっていたのか、夕方5時半から放映されていたマンガ「美味しんぼ」再放送だった。

 これを見ていると「そうだ、そんな味もあったな、作ってみるか」という気持ちになるのだ。子どもたちも概ねぼくの料理の味が好きだったおかげで、楽しんで料理することができた。そう、料理には食欲とインスピレーションが大切なのだ。シックハウスのような薬品臭い部屋ではどうにもならない。

 夏場、暑くてどうにも食欲がわかないときには、よく宮崎県のソウルフード、「冷汁」を今も作る。と言っても自家製の独自のもので、本来なら光物の魚をすり潰して作るのだが、はるかに簡略化して作っている。ただし大量のきゅうりと大葉、ミョウガと豆腐とゴマが入っていて、植物の香りと涼味が食欲を復活させてくれるのだ。

 しかし涼味のあるものは長く保存ができない。ところが面白いことに、スギの棚に置いた食品はカビが生えにくく長持ちする。料理を考えるとスギ板の棚に囲まれていたいのだ。

家族に合わせて

 さらに言えばぼくは子煩悩だ。子どもが大好きで、この世に子ども以上に大切なものはないと本気で思っている。しかし台所で料理しているときに、足元にまとわりつかれるのは怖い。熱湯はあるし包丁はあるし、ちょこまかされては困るのだ。そのため新たな我が家の台所は「アイランド型」にした。隅に台所を詰めて置くのではなく、部屋の中に島状に流しと調理台が出っ張り、カウンター越しの反対側にテーブルがある形だ。料理しながら子どもの様子が見えて安心できるし、料理したものをそのまま配膳できる。

 本当は台所に大きなストッカーが欲しい。日本の伝統的な乾物類を並べ、保存の効くパスタやハーブ類に囲まれていたいのだ。さらには漬物のためのスギの部屋もほしい。食品とスギの相性の良さは経木、かまぼこ板ばかりではない。味噌樽、酒樽…発酵と言えばスギなのだ。たとえば有名な『寺田本家』の酒蔵も、建物そのものがスギで作られていて、発酵菌は外から持ってくるのではなく部屋のスギに住みついた菌に作ってもらっている。もちろん防カビ、防腐処理されたスギではできない。高温乾燥のスギでも無理だ。スギの精油分を残した生きているスギだからこそできる。天然住宅で用いるスギならそれができる。

アイランド型キッチン

「似合う」家に

 私たちは服に合わせて体を作ることはできないから、体に合わせて服を仕立てる。暮らしと住まいも同じではないか。住まいを作るときに大切なことは、格好良い住まいのデザインではなく、人が生きるのに適切な環境になっているか、さらには自分の好みや生き方に合っているかどうかだと思うのだ。

 「家を見た途端にその人となりがわかる」--そんな家にしたいと思う。

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