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第9回 カビを寄せつけない技術

くんえん乾燥炉
くんえん乾燥炉@栗駒木材

木材は精油分が大事

 前二回に渡って小林建工さんの話を紹介したが、比較しては失礼かもしれないが、天然住宅の手法より優れた方法を続けていることがうれしかった。天然住宅でも伐採してきたばかりの木材を防カビ剤に浸したりしない。それでは有害な木材になってしまい、本来の『無垢材』の名に値しないものになると思うからだ。しかし木材にカビが出てしまったらどうするのか。カビもまた生き物だから、全くカビが出なくする方法はない。しかし出にくくさせる方法はある。そのひとつが第七回で紹介したカンナ掛けだ。

 カンナ掛けすると、同じ木とは思えないほど見事に表面が光る。普通に使われる木材は表面をサンダー掛けしている。これは表面をヤスリでこすっているのだ。そうすると木材表面の細胞はつぶれ、残念ながら光りはしない。ところがカンナ掛けでは、表面の細胞を鋭利な刃物で薄く切断しているのだ。光るのは切断された細胞から流れ出た『虫の嫌う精油分』なのだ。その精油分がカビを寄せつけなくさせる。

煙で燻す『くんえん乾燥』

 天然住宅では他の方法も利用する。それが『くんえん乾燥』という方法だ。残念ながら天日乾燥していたのでは時間がかかりすぎて、今の木材業界では生き残るのが困難だ。製材所は現金で買った木材で家を建て、建ててからやっと現金を得る。その間の木材保管の期間が長ければ、その金利負担につぶされる。ブランド力を持った銘木なら可能かもしれないが、そうでない普通の山では乾燥させるために木を何年も持ち続けるのは困難なのだ。

 天然住宅は各地の山を再生したいのだから、ブランド力に頼るわけにはいかない。どこの山でもやれるようにしたいのだ。するとどうしても時間を短縮でき、木を傷めない乾燥方法が必要になる。木材の精油分を失わせては元も子もない。そこでリグニンが分解しない温度で、精油分が流れ出さない温度で乾燥させるのだ。その温度は最大でも80℃、可能なら木の芯の部分で45℃までに設定したい。

 その温度で木材を燃やしたガスで燻す方法が「燻煙乾燥」なのだ。煙は虫が嫌う匂いなので寄りつかなくなる。ただしこのくんえん乾燥だけでは完全には乾かない。乾燥の前処理、「予備乾燥」として使っている。木材の含水率(重さに対する水の率)は住む段階で20%以下にするのだが、くんえん乾燥では40%程度にしかならないからだ。あまり含水率が高いと、後で木材が縮んで歪んだり割れたりするからだ。予備乾燥のあと、天然乾燥したりして含水率を下げている。

 しかしくんえん乾燥の良い点は他にもある。虫が寄らなくなる、濡れても乾燥するのが早くなる、そして歪みにくくなることだ。

木材の細胞
低温くんえん乾燥では、木材の細胞を壊さない。
木材の細胞の壁が壊れている
高温乾燥により細胞の壁が壊れている様子。

名前のない『本物の無垢材』

 今、二次乾燥をするための新たな木材乾燥技術を成功させた。成分を変えた浸透性の高い水を使い、浸透させてから逆に乾燥させる。もちろん温度は高くしない。ヒノキは簡単に乾燥するから問題ないが、スギは色の濃くなった芯の部分だけは、なかなか乾燥しないのだ。カラマツや能登ヒバのように歪みやすい木もある。これを歪ませずに乾燥させる木材乾燥炉を目指してきた。それを実現させた。しかも従来の半分ほどの時間で、歪み・割れを作らずに乾燥できる乾燥機を実現したのだ。木材はタテ方向に細胞が並んでいる。ヨコ方向にも水分が流れる細胞組織があるのだが、弁が塞がってしまってこれまで乾燥させることができなかった。それを成功させたのだ。

 くんえんした木材に加えてカンナ掛けする。すると防カビ剤に漬けなくてもカビが生えにくい木材になる。もちろん絶対ではないが。天然住宅では「防カビ剤に漬け」た木材を『無垢材』とは呼ばない。では何と呼んだらいいのだろう。今の『無垢材』は本物を意味しない。その違いを知ってほしいと思う。
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