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第1回 住むんだったら健康な家がいい

「一般社団法人 天然住宅」を設立してから8年目、ついにそのぼく自身が家を建てることになった。岡山の片田舎、山側から数えて二軒目。その奥に住む人はいない。今建て替えのために、欲しいという人にランプシェード、格子戸や建具、棚、石臼などを譲ったら、家の中はとても殺風景になっていた。  

建て替え動機はやっぱり寒さと臭い、それと昆虫、動物対策だ。庭にキジやキツネ、タヌキなどが来る。それだけなら愛らしい話だが、家の中で出会うのだ。『どこまで隙間だらけの家なの?』と聞きたくなるような古民家なのだ。次の家はもちろん天然住宅仕様。暮らしは豊かではないが、建てるんだったらやっぱり森を守れて健康、長持ちの住宅がいい。まだ給与を得たことはないものの天然住宅の経営者だし、今回の家もまた実験的な試みをさまざましてみることにした。そこで、このタイミングで田中優の「住宅と森のコラム」を書いてさまざま紹介してみることにしたいのだ。
天然住宅は非営利のせいか、お客様との関係がちょっと違っている。普通はモデルハウスを建ててそこを飾って見せるのが常だが、そんなものはない。逆に建て主さんにお願いして、建物を見せてもらうのだ。新築見学会や建物の構造見学会(建ててしまうと見えなくなってしまう基礎、土台や柱などを見てもらう)もあるが、『天住マニア(?)』にたまらないのが築後10年以上の住宅だ。木材は生き物だからひぴも入れば傷もつく。軋んだり、カビが生えることもある。それをそのまま見てもらい、住まい手に直接住み心地を聞いてもらうのだ。その際のやりとりが、工務店と建て主との関係に見えないと言われる。仲間のような友だちのような感じだ。中には見学会の前に大掃除が必要な人もいて、スタッフ総出で掃除することもある。
 「また見学会してくださいね」
 『いや、見学会じゃなくて掃除に来てほしいんでしょ』と思うこともないわけじゃない。
でも建ててくれた人たちが喜んでいる姿を見るとうれしい。世間には、「儲かる」会社と「うれしい」会社があるんじゃないかな。儲かると会社はうれしいだろうが、住まい手がうれしいわけじゃない。天然住宅のスタッフの努力が報われるのは、建て主さんに喜ばれたときだ。しかしそれ以上に喜んでくれるのが山のスタッフだ。「くりこま木材」という宮城県栗原市の会社からほとんどの木材を入れているが、そこの大場さんからお願いされることがある。

 「ぜひ建て主さんを山に連れてきてください」と。  

そこで建て主は自分の家に使う木を切り倒す経験をする。周囲を森林班のメンバーが固めた上で。お神酒を備え、祈ってお礼を伝えてから切り倒す。大きな音を立てて、木が地響きとともに倒れるとき、「カネ出せば買える」と思っていた家がそうではなくなる。「命をいただいて建てさせてもらった」家になる。キコリの彼らはそれがうれしいのだ。  

カビを完全に出さないことは難しいが、出にくくすることならできる。でんぷん質の多い夏場に伐採せず、くんえん乾燥で木材を煙で燻し、木の表面をカンナがけすると出にくくなる。最後のカンナがけは不思議な工程だ。普通ならニスなど塗料を使ってしまうところだが、日本にはカンナがけという方法がある。木の細胞を押しつぶさずに薄く切ることで木の精油分が溶け出して、カビを寄せつけなくなると同時に美しく輝き始めるのだ。 

 「カンナ・マジックだね」 

「昔の人の知恵はすごいんですよ」とくりこま木材の大場さんが言う。そんなとき、そんなマジックをもっと知りたいと思うのだ。
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