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第8回 日本ミツバチ

日本ミツバチのはちみつ
日本ミツバチのはちみつ

日本ミツバチがいるということ

 前回、小林建工の話をしたが、その小林さんに日本ミツバチのハチミツを分けてもらった。実は我が家では、以前から日本ミツバチのハチミツを使っている。ところが日本ミツバチから採れるハチミツは量が少なく、西洋ミツバチと違って年に一回しか採れない。日本ミツバチは野生種なので、自然界に普段から住んでいる。その野生のミツバチをおびき寄せて、箱の中にハチミツを貯めてもらうのだ。そのハチミツは値段も高いが、それ以前にほとんど売っていないし信頼できるものばかりではない。西洋ミツバチのハチミツと混ぜられたとしても確認のしようがないからだ。

 小林建工は愛媛県・今治の会社だ。今、ミツバチを滅ぼしてしまっている可能性の高いネオニコチノイド系殺虫剤は、市街地である今治市だったら当然使われているだろう。日本ミツバチは西洋ミツバチより敏感で、農薬を察知すると巣を捨てていなくなってしまう。とても今治市内で採れそうにない。どこで採っているのだろうか。

「石鎚山の山奥です。…今治では難しいので」

 おそらくは木材を伐採している山で採っているのだろう。普通の山では今や、松枯れ対策や害虫対策のためにネオニコチノイド系の『マツグリーン』という殺虫剤が撒かれている。これが山から流れ出る水自体を汚染してしまっているのだが、日本ミツバチを飼っているということは、山に殺虫剤を撒いていないことの証左なのだ。

知ってほしいから…

 そのハチミツを恐ろしく安い価格で売っていた。ぼくは驚いて聞いた。
「なんでこんなに安く?」

「もともとタダで配ろうと思っていたんです。知ってもらえばいいと思って」

 日本ミツバチのハチミツは、味が濃厚でとても美味しい。一種類の花の蜜を集めることはできない代わり、自然の花の蜜を集めた複雑な味がするのだ。しかも西洋ミツバチのハチミツからは微量ながらネオニコチノイドが検出されるが、日本ミツバチではほぼ皆無だ。だから我が家は日本ミツバチ派だ。

「我が家では買うのに苦労していて、隠岐の島の養蜂家さんから買っていたんです。これを買うことはできますか?」

「これからホームページでも公開しようと思っているところです。…日本ミツバチのハチミツと言ってもニセモノも多いですからね」

 石鎚山には若い頃に登ったことがある。登山者がほとんどいない山で、険しい道を鎖を使って登った覚えがある。本物の自然に出会える場所だった。あの山の奥で集めたハチミツだと思うと、さらにうれしくなる。友人たちに配ろうと、少し多めに買ってきた。本当は全部買い占めたかったけれど。

カネではない価値を

 だけど価値が分かるからといって、自分ばかりがもらって他の人が手に入れる可能性を奪っちゃいけない。実際、我が家からのプレゼントには日本ミツバチのハチミツをよく選んでいる。これが広がればネオニコチノイド系農薬の問題に気づく人が増えるだろうし、殺虫剤の危険性に気づいて反対してもらえる人が増えるかもしれない。そもそも殺虫剤を使わなくても元気な野菜を作れば虫は広がることができないのだから。…そう思って関わりのある人に、説明もせずに配っている。だからその貴重さはよくわかるのだ。

 帰りに気づいたら、我が家の一歳の娘が一個余分に握っていた。お店の人がプレゼントしてくれたそうだ。…こんな商売がしたいと思う。おカネ儲けではなく。

『いつかその価値に気づいてもらえるだろうか。そうでなくてもその子の体には本物の良いものが入るのだから、それでいい』

 きっとそう思ってくれたのだろう。なんだか久しぶりに、気持ちの良い出会いをした。ぼくは実はシャイで、人に話しかけようとしない性格なのだが、今回ばかりは話しができて良かったと思う。