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第16回 湿気で溶けていく家



いつも編集者が素敵な写真を選んで文章につけてくれているので、
今回は逆に写真から逆に選んで文章を書いてみることにしよう。
お風呂場の湿気

床が抜ける

ある友人から悲鳴のようなメールが届いた。風呂場の浴槽がぶかぶかするので修理を依頼したら、浴槽の下が写真のような状態になっていたのだそうだ。家自体はかわいらしく、まだ建ててから20年経たないものだ。それなのに写真のように、浴槽の下の土台の木材は断熱材とともに腐り、溶けかけていたのだ。周囲のタイルの内側の木材も腐っていて、そのままだったら浴槽が下に落ちるところだったと言われたそうだ。

「家が壊れちゃうよ~」という悲鳴のメールだった。

結露はコップのビールと同じ

特に「水場」と呼ばれる「風呂・トイレ・炊事場」は危険だ。湿気が家を蝕んでしまうからだ。家の大敵は「湿気」だと思う。湿気のせいで木材は腐るし、健康に有害なカビは広がるし、湿気があるからシロアリに食われる。気づかずに窓や壁が結露していても気にしない人が多いが、その結露は外の温度と接するすべてのところに発生しているのだ。昔の家は外と中の温度に変わりがないほどスカスカだったが、今は快適性のために高断熱するのが当たり前だ。その結果、温度差が生じるところで結露する。

簡単に言えば冷たいドリンクをテーブルに置くと、グラスの周囲に水滴がつくのと同じことが家でも起こるのだ。特に問題になるのは冬場、室内を暖かく保って室外の寒さを入れないようにしているときになる。外が冷たいドリンクで、部屋の中がグラスになる。そこに結露するのだ。

結露しているのは室内空気中の湿度だ。暖かい空気はたくさんの湿度を含むことができるが、冷たい空気の中ではそうではなくなる。湿気を含んだ室内空気が、冷たい壁や窓のところで保ちきれなくなって水滴になるのだ。ならばと、室内空気の湿気の元になる暖房をガスからエアコンに変えたり、室内空気を外気と入れ替えたり(その分だけ暖房の効率は落ちてしまうので、熱交換器付きの換気扇をつけたりする)、高効率な断熱材にして温度差のある素材の中に湿気が入れないようにしたりする。

復興住宅 畳一面にカビ (2015.9.4 東京新聞)

復興住宅 畳一面にカビ(2015.9.4 東京新聞)
なんと仮設住宅から抜け出して『復興住宅』に入居した気仙沼の人たちも、安堵もつかの間、畳み一面にカビが生えて困っているという。建てた大和ハウスの担当者は、「構造上の問題はなく、建物の気密性が高いため、換気が十分でないと空気が滞留してカビが発生する可能性がある」と説明している。気密性が高いと結露するのに、換気しなかった入居者が悪いと言わんがばかりだ。

天然住宅では結露はまずしない。窓ガラスをペアガラスやLow-Eガラスにしなくても、結露することはほとんどない。断熱性能の高いペアガラスやLow-Eガラスは今では当たり前になってきたが、以前はとても高いものだった。それが使えなかった時期に建てた住宅でも結露しない。初めて見たときは不思議で仕方なかった。

理由は簡単だった。木材を普通の家の二倍以上使い、湿気を調整できる素材を使って高断熱だが、高気密にしないウール断熱や貝殻素材のしっくいを使う。湿気は素材に吸着されてしまう。スギの柱一本だけでビール瓶3本の水分を吸収でき、しっくいは湿気を保つ。ウールはたくさんの水分を吸収しても決してべたつかない素材だから結露が避けられる。

湿気を拒否するのではなく、素材内部に貯めておける仕組みなのだ。一年間、大学の協力を得て居住中の家の壁の内部の湿度測定をしてみたことがある。結果は一年間の間に一度も結露する湿度にはならなかった。湿度で見ると、むしろ加湿器を使った方が良いぐらいの壁内湿度だった。これを「高気密」という言葉に対して、「適気密」と呼んでいる。(→研究結果について)

だから風呂上りに濡れた体のまま居間に来てもらってかまわないし、室内空気を汚染する化学物質は使っていないから、室内を無理に換気しなくてもいい。家を長持ちするものにしたかったら、天然の素材に頼むのがいい。電化製品で10年ほど、化学製品でも20年も経てば劣化してしまう。それでは家の寿命に見合わないだろう。
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