『たゆたえども沈まず』

焦燥・不安。心の中に沸き立ってくる激しく熱いもの。
そういうものを感じることはありますか?
または、若いころ、感じたことはありましたか?
26歳の私は、よくそういうものを感じることがあります。
心が先走って、自分の経験や技術がそれに追い付かない。心の底から突き動かされるような強いものは感じるが、それに間に合うほどのノウハウをまだ持っていない。そんな焦燥ーーー
この本の主人公、フィンセント・ファン・ゴッホも、それを感じて生涯を過ごしていたのではないかと思います。鋭く、熱く、沸々としたものをいつも心の中に抱いていたのではないでしょうか。
ゴッホは、今や、知らない人はいないほどの大きな影響力を持つ画家としてその作品が知られています。
代表作「ひまわり」が58億円で落札されたことをご存じの方も多いのではないでしょうか。
そんなゴッホですが、絵が売れるようになったのは、亡くなった翌年以降。
生前に売れた絵はたったの1枚のみ。
そんな彼が、心の中にどれだけの孤独や苦しさを抱いて戦っていたか—
その苦しみ抜いた生涯を描いているのが、この小説『たゆたえども沈まず』
孤独だから絵を描き続ける。それが彼の心を救うもので、自分の心のどうしようもない怖さ、孤独をキャンバスに移し、埋めていく。それを投下できない、認められない苦しさを生涯味わったゴッホの生きざまと、周りの人たちの話。
”たゆたえども沈まず”
ラテン語で「Fluctuat nec mergitur」。
これは、パリ市の紋章に書いてある言葉だそうです。
「どんなに強い風が吹いても、揺れるだけで沈みはしない」ことを意味しています。
ゴッホは、絵が売れなくても、認められなくても、絵を描くことをやめなかった。
やめることができなかったと言ってもいいかもしれません。
彼が人生の中で突き付けられ続けた孤独と、それに屈せず向き合い続けた彼の人生は、「たゆたえども沈まず」それを体現しているのではないでしょうか。

気が付くと私の家にはこんなにもゴッホに関する本が…
絵だけではなくその生き方に惹かれる(惹かれざるを得ない)強烈な「何か」があるのかもしれません。
心の中に沸き立つ熱いもの。誰しも一度は経験するものだと思います。
遠い昔に感じた人も、今まさに感じている人も、ぜひ手に取って読んでほしい作品です。
ちなみに東京都美術館では、12/21まで「ゴッホ展」をやっているそう。
気になる方は是非行ってみてください。
>>>ゴッホ展 公式ウェブサイト
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