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読書日記|田中

サスティナブルなものづくり~ゆりかごからゆりかごへ(C2C) | W・マクダナー M・ブラウンガート

「エコ」の希薄化と矮小化


SDGsが謳われ、世の中では「社会に良いことをしよう!」という雰囲気が醸成されつつあります。それ自体は良いことだと思います。例えば買い物の時にその意識があれば、より「エコ」なものを選択するようになるかもしれない。しかし、本当にその製品がエコか?というのは、なかなか分からないと思います。そこには、消費者の意識も大切ですが、生産者側の「良心」も同時に問われているからです。
 
私たちはモノづくりをする会社として、その責任を強く感じています。
 
建築の現状はどうかといえば、もちろん「エコ」を心がけることは業界全体で共有されているし、国もそれに対して方向付けするように制度設計していると思います。ただ、手段の目的化というのはどこでも起きることだと思いますが、建築における「エコ」も、そのような状況に陥っているように思えます。それは、「エコ=省エネ」と問題が矮小化され、それがすべてになっているように感じられるのです。
 
元々、環境への負荷の大きい産業である建築において、それを環境を守るものに転換するために行なわなければいけないことは多岐に渡ると思うのですが、ところが今、それは、断熱・気密・再生エネルギーさえ行えばOKになっています。そしてその手段を突き詰める中で、効果の低い隘路に迷い込んでいるように私には見えます。
 
もちろん、それらが広がることは素晴らしいと思います。しかし、気密を求めて「C値1以下にするぞ」といって、石油製品をバンバン使うっていうのは、どうなのだろうか?家庭で消費するエネルギーのすべてを電気に頼ったシステムを採用するのはどうなのだろうか?使用する建材は山や森、海や大気を守ることにつながるだろうか?(プラスチック建材はたくさんあるし、環境に寄与しない合板、集成材もたくさん使われている)。人体への影響はどうなのか?廃棄の問題はないだろうか?
 
もう一度、そもそもの目的に立ち返るタイミングに来ているように思います。
 

「自然は敵」のシステム


この本を読みながら、ジブリの「もののけ姫」の物語を思い出しました。
 
たたらばの長、エボシは自らの集落のためならば、自然からの収奪をまったく厭わない人物として描かれています。たたらばは製鉄をしており、製鉄には大量の木材が必要です。そのために森を壊し続けています。しかし、エボシは完全な悪としては描かれてはおらず、病の人を助け、女性が活き活きと暮らせる社会をつくる女のリーダーとして、人望を集めています。自然からの収奪に迷いのない行動も、一定の「理解可能な」こととして扱われているし、エボシに従う女たちも、いい人たちです。
 
つまり、この時代において、そのように考える人というのが当たり前であり、アシタカやサンのような人は、その時代には奇異な存在なのです。サンは自然の立場の代弁者で、アシタカは現代からタイムスリップした(ような価値観を持つ)存在として描かれているように見えなくもないと思います。
 
元々人類にとって、自然とはコントロールの利かない「敵」であり、超克の対象でした。雨が降らなければ作物は育たず、天変地異は幾度となく、人の営みを破壊してきました。だからこそ、人類は自然をコントロールすることを夢見て、収奪の対象として、当然に自然を捉えてきました。いくら対抗しても収奪をしても、自然は人々の営為を凌駕するものでした。
 
しかし、産業革命以降、人間は力ずくで自然を制圧していくことに成功し、環境の限界を超えはじめました。現在は、環境破壊が問題視され始めてから久しく、それ以降に生まれた人にとっては、「自然が敵」であった時代の感覚は感知しにくいものだと思います。地球温暖化や大気汚染などの問題が当たり前のように話題になる今では、自然は保全の対象であり、「自然は敵」の時代があったことは忘れ去られていて当然です。
 
このように、人々のマインドは変わったかもしれませんが、実はシステムは変わっていないということにも気づかないといけないと思います。口ではエコと言いながら、私たちは自然破壊的システムに加担し続けています。元々あった「自然は敵」のマインドに起源を持つシステムを、「今」のマインドに合わせてアップデートしなければいけない、そう思います。
 
この本は刊行が2002年、日本語訳の発行が2009年です。もう20年も前の本ですが、とても大切な示唆があるし、今読んでも十分に刺激的な内容です。変わったものはあると思います。ただ、大きな流れは変わっていない。当時の指摘を今こそ、実行していくべきだと思います。
 

持続可能なものづくりのポイント


持続可能なものづくりのために、重要な指摘はいくつもありますが、下記の点は特にこれから重要になることだと思いますし、視点を変え、行動を変えていかなくてはいけないことだと思います。世界でも少しずつこの変化はあるようです。
 
ゴミの概念をなくし、ものづくりを一方通行型から、循環型の視点にしていくことが必要です。

そのためのポイントは、生物的代謝と技術的代謝です。
 

生物的代謝とは、簡単に言えば「土にかえる素材」でものづくりすること。そうすることで製造時の環境への負荷は減らすことができるし、ゴミはゴミでなく、養分にすらなりえます。そのためには、土に還らない素材や、複合資材を使用しないことが重要です。

技術的代謝とは、使い終えた製品を何度も使えるような技術やシステムを確立することです。リサイクルでは不十分で、できれば、アップサイクルできるような製品デザインをしていくことが必要です。

 
新たなサービスやビジネスモデルをつくっていくことも必要です。購入して、使って、捨てるという一方通行型システムを、サービスで変えていく方法は持続可能なものづくりとセットで必要になる考えです。リースなどをして、製造者が使用済みの製品を引き受け、再度使える製品にしていくようなシステムを社会全体で構築できると、よりものづくりの持続可能性は加速していくと思います。
 

5つのポイントを実践に活かそう


本書の最後にエコ効果への5つのステップが示されています。それは、現行の製品サービスを変更していくときに役立つ5ステップであり、これを満たさなければいけないという5箇条ではありません。このことも必要なスタンスではないかと思います。

「これができなければ落第」というのでは、エコ効果を試そうという意欲的な生産者を生むことはできないからです。ほとんどのものづくりは現在は古いシステムの前提でできているし、性急で大きな変更はリスクを伴うので変革へのハードルが高くなってしまいます。
 

ステップ1 危険物を排除すること
ステップ2 情報に基づいた選択
ステップ3 技術的格付け表による分類
ステップ4 ポジティブリストの活用
ステップ5 再発明

 
環境やエコへの取り組みの話題にも関わらず、ステップ1で「危険物を排除すること」をもってきていることはとても本質的だと思います。

危険な化学物質を使用していないか?省エネや数値の前にこのことを問わなければいけないと思います。製品自体やそれをつくる過程で、公害や病などの原因になっては元も子もありません。しかし意外にこの点は盲点ではないか、と思います。

環境というテーマに捉われて、問題を矮小化してしまうのは本末転倒です。ものづくりについて高尚な話をする前に、一番初めに忘れないようにちゃんとチェックする必要のあることです。建築はまさにこの問題を直視すべきだと思います。なぜなら、建築資材は健康問題への効果的対処が不十分であり、未だにシックハウスや化学物質過敏症を生んでいます。そのような資材は、製造過程で環境に負担がないはずがありません。
 
また、建築は人生最大のゴミになるものです。社会に大きな影響を与える分野でありながら、それは未だに旧態依然として変わらない環境破壊的性質を持ち続けていると思えます。廃棄の難しい合板、集成材などの複合資材はほとんどの建築に使用されていますし、多くの建物に使われているビニールクロスも再利用できません。薬品で処理されている建材は燃やしたり土に還すことはできません。その建築が変わっていくならば、社会が、まさに「再発明」を生み出す土壌をつくることに等しいと思います。
 
そして今見直すべきなのは、エコ=省エネ一辺倒の発想ではないかと思います。
最近、LCCO2とかLCAというワードを聞くようになってきました。これは、天然住宅を設立した2008年、大学との共同研究で示そうとした課題の一つです。

LCCO2とはライフサイクルCO2、つまりその製品がつくられ、使われ、廃棄される中で発生させるCO2の量です。建築につかう建材はどれくらいCO2を排出しているのか?ものづくりの環境負荷を測る指標になる視点です。CO2ですべてが測れるわけではない(同じく手段を目的化してはいけない)ですが、環境負荷を端的に表せるのはCO2かと思うので、便宜的にはこれを目安にするのは良いと思いますし、この視点では、使用するエネルギーだけではなく、製造と廃棄(運送等)も問題にできます。
 
このような視点は今までのエコ建築では問題の外にある考え方です。おそらくこれから気候変動問題が加速する段階においては無視できなくなると思います。天然住宅は、この視点で評価されることを待ち望んでいます。
 
外材を使わなければ、運送費は下がる。無垢材は、合板、集成材よりも製造エネルギーはかからないし、ゴミにもならない土にかえる素材です。塩ビクロスは処分できないが、しっくいは土にかえる素材です。このように一つ一つ見直さないといけません。
 
2002年に示されたサスティナブルなものづくりの指針は、まだ結実されているといえないどころか、着手すらされていないかもしれません。その時よりも確実に進んでいる環境危機に対して、私たちは真摯に向き合わないといけないと思います。
 

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