
こんにちは。広報の井上です。
週末、世田谷区にあるマンションでお住まい見学会を開催しました。

今回のお宅は、リノベーションから9年目を迎えたお住まいです。
ご夫婦おふたり暮らしで、中古でこのマンションを購入されてから15年。
年々ひどくなるカビと結露、冬の底冷えに悩まされ、「もう我慢できない」というタイミングでご相談をいただきました。
もともとは自然素材の家づくりに特別な関心はなかったそうです。
きっかけは、天然住宅の創業者・田中優の著書。
巻末に少しだけ紹介されていた「森を守りながら家を建てる、循環型の家づくり」という考え方に惹かれ、「こういう家づくりもあるんだ!」と、心に留めてくださっていたそうです。
“見えないところ”から整えるリノベーション
今回の改修では、間取りの変更こそほとんどありませんが、内部はほぼスケルトンにして断熱改修を行い、内装も一新しました。

外周部に面する壁に、呼吸する素材である羊毛断熱材を充填。リビングには蓄熱式の床暖房を設置しています。
寒さや湿気によるストレスを減らすため、土台づくりから丁寧に取り組みました。


△気密性の高い鉄筋コンクリート造のマンションでは、空気がこもりがち。壁の上下にスリットを設けて、通気性を確保しています。
窓は、既存の単板ガラスからペアガラスへ。
マンションでは窓が共用部にあたるため変更が難しいのですが、管理組合の合意を得ることで、実現に至りました。
床材には、節のない無垢の杉を敷きました。
壁と天井には、ホタテ貝を原料とした漆喰を使用し、調湿性や断熱性を高めています。

リフォーム後は、カビや結露がなくなり、「夏も冬も快適に過ごせるようになった」とのこと。
この日も朝から強い雨で湿度が高かったのですが、10人ほどが集っても、室内は爽やかで快適な空気が保たれていました。



収納を兼ねたカウンターは、食事の場としても活躍しています。
「一番変わったのは空気です」と語ってくださった施主様の言葉が印象に残っています。
自然素材の力、壁内結露を起こさない設計、空気が滞留しない工夫、そして丁寧な施工。
それらが“目に見えない快適さ”を生み出しているのですね。
照明が少ないって、心地いい

もうひとつ印象的だったのが照明の“少なさ”です。
必要な場所とそうでない場所を見極めたメリハリのある照明計画。
なんとリビングにも寝室にも、“天井”には照明が一切ありません!
代わりに、間接照明や、必要に応じて手元を照らすスポットライトを用いているそうです。
廊下のダウンライトも、通常なら3つは欲しくなる場所に、あえて1つだけ。
「暗すぎたらどうしよう」と不安にならなかったのか、つい聞きたくなりますが、その選択には明確な理由がありました。

「目への負担を減らしたかったんです」
「天井の漆喰を、美しく見せたくて」
その潔い選択が、空間の心地よさにつながっています。

実際、その空間に立ってみると、光の“足りなさ”は感じませんでした。
むしろ、光がやさしく届く分、時間の流れもゆるやかになっているような感覚に。
参加された方の中には、「我が家もこんな明るさにしたい」とおっしゃる方もいました。
暮らしとともに熟成する住まい


杉の床は、艶やかに育っていました。
ふだんのお掃除は、クイックルワイパーをモップに付けて乾拭きするだけとのこと。
「拭くことで磨きがかかる気がします。お掃除しながら、お手入れもしているような感覚になるんです」
無理なくお手入れできるということも、長く快適に住むための大切なポイントですね。

△ 油ハネが気になるキッチン。汚れが目立ちにくいタイルを選んだおかげであまり気にならないそうです。

△キッチンとリビングの間にモールガラス入りの建具を設けました。来客時の目隠しになり、調理中の匂いもほどよく遮ってくれます。
それにしても、本当に素敵なお住まいでした!
家具ひとつとっても、長く大切に使われてきたことが伝わってきます。
何気なく置かれた小物にも、センスが感じられました。

暮らす人と、選ばれた家具や調度品が、時間をかけて住まいと呼応し、少しずつ馴染んでいく。
住まいの心地よさとは、時間の積み重ねとともに育まれる、全体の調和がもたらすもの。
そして、住まいは完成したら終わりではなく、ゆっくりと発酵するように、暮らしとともに熟成していくもの、なのですね。

見学会のあと、施主様が珈琲を淹れてくださいました。
大人6人がカウンターを囲む。ちょうど良い距離感で。立ち話も自然とはずみます。
「まだまだここにいたいなぁ」と思いながら、お暇しました。
素敵なお住まいを見せてくださった施主様、見学会に足を運んでくださった皆さま、ありがとうございました。