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【建てるヒト】木を見て森を知る 〜家づくりの意味とは〜(伐採体験編)

東京都内に自宅を新築中の黒田と申します。
子どもは巣立ち、夫婦二人で暮らしています。快適に、安全に、できれば環境に負荷をかけないで過ごしたい―。そう考え、定年退社を機に、天然住宅さんに家づくりをお願いしました。
 
家づくりとは何だろう、と自問することがあります。打ち合わせを重ねるうちに、ただ住む場所をつくるためだけの営みではないように思えてきたのです。
 
2月中旬、夫婦で伐採ツアーに参加し、その答えが少しわかったような気がします。「木を見て森を見ず」ならぬ「木を見て森を知る」体験でした。
 
家づくりを通じて感じたことを数回に分けてお伝えします。

記録的な暖冬で全く雪のない山の中、私たちを待っていたのは、ピンクのテープが巻かれた6本の杉の大木でした。

東北新幹線の古川駅からレンタカーで1時間弱。広さ260ヘクタールの「エコラの森」は、宮城県大崎市の鳴子温泉にあります。

「この中から、好きな木を1本選んでください」。案内してくれた富張信司さんに言われました。

この森は、地元の企業などでつくるNPO法人が管理しています。リゾート開発の乱伐ですっかり荒れ果ててしまった森を買い取り、植樹しながら再生を進めています。

セブン・イレブン-ジャパン、メットライフ生命といった企業も支援しています。

木肌に両手を当て、間近に見ると、杉の木はそれぞれに「個性」があります。樹皮の模様、空への伸び具合、枝の付き方…。

伐採は「命をいただくこと」とほかの建て主さんがブログに書かれていましたが、まさにその通りです。

選択に重みを感じ、逡巡していると、富張さんに背中を押されました。

「森の木々は適度に間引かないと健康に大きく育ちません。野菜と一緒です。択伐、間伐しながら育てていくのです」

心を決め、最初に手を触れた木を選びました。

チェーンソーの使い方を習い、刃を当てます。

手を添えてもらいながら、夫婦で順番に切り口を付けます。

倒れる方向を確かめ、くさびを打ち込むと、大きな音を立てながら木は山側にゆっくりと傾いていきました。

 
切り口は水を吸って濡れています。高さ25メートル弱、根元の直径は40センチ。54歳の年輪を重ねていました。

ついさきほどまで、還暦前後の私たち夫婦とほぼ同じ年月を生きてきたのです。命を大切に使わせていただかなければならない、と改めて思いました。

翌朝、地元の製材会社、クリモクの本社工場で伐採木と再会しました。不思議と愛着がわき「私たちの木」という感覚です。

職人さんが機械を使って手際よく樹皮を削り、決まった太さに裁断していきます。この後、10日間ほど低温燻煙乾燥し、3~6か月天日干しにするそうです。

1キロほど離れた宝来(たからぎ)工場も見学しました。廃校を利用し、昨年夏に稼働したばかりです。

天日干しされた木はここに運び込み、加工します。

驚いたのは、森から切り出した木を無駄にせず、利用し尽くしていることです。

余った木材は家具作りに回します。端材は製紙工場向けのチップに、削りかすはストーブ用のペレットに加工します。

ドイツ製の機械を導入し、チップを燃料にして電気と熱も供給しています。

いずれ機械を増やし、すべての電気を自前でつくる「完全オフグリッド化」を目指しているそうです。

 
森を健全に育てるために切り出した木がぐるぐると循環し、自然に還っていくようです。ここまで徹底した取り組みは「国内でほかに例がない」と富張さんは胸を張ります。

よく考えると、私たちが木を切ることがなければ、この循環は生まれません。

家づくりは、循環の一部というよりは、始まりと言っていいのかもしれません。やはり、ただ住む場所をつくるだけの営みではなかったのです。
 
私たちが伐採した木にはおもしろい「おまけ」がついていました。切り倒してわかったのですが、木の表面に直径10センチほどの穴があったのです。

鳥がつついて削った跡です。どうやら私たちよりも先に、この木をすみかにするつもりだったようです。作業員の方たちも「初めて見た」と驚いていました。

木材の強度には影響しないそうですので、この穴を残してもらうことにしました。完成した私たちの家のどこかで見られるはずです。伐採した時の森や木の様子が鮮やかによみがえってくるに違いありません。
 
 


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