まち|小野寺史宜
小野寺史宜さんの小説との出会いは、昨年のことです。
2019年本屋大賞第2位「ひと」を読んだことがきっかけです。
本屋大賞ノミネート作品を読もうと思い、その中でも名字が同じだからという理由で読み始めたのでした。宮城にはたくさんいる小野寺も、東京にはいるようでいない。小野寺は、小野寺を欲していたのでしょう。
不純な動機で読み始めた「ひと」ですが、あまりにも素敵なお話で、とても心が温かくなったのでした。
そして昨年末、正月に読む本を決めようと思い、本屋で見つけたのが、今回ご紹介する「まち」だったのです。
「ひと」の続編かのような雰囲気を纏った本作。
ものすごく大きな事件や出来事が起こるわけではありません。
誰にでも起こり得る日常の出来事。日常の喜怒哀楽。そして、心に抱えている悲しみ。それが、平易な言葉で紡がれていきます。それがとても温かい。
主人公の瞬一を、親代わりとなって育てたじいちゃん。じいちゃんは、瞬一に言います。
「人を守れる人間になれ」
安っぽいヒロイズムの話ではありません。等身大で自然体のやさしさ。そこには、「守る」という意識はないのかもしれません。
価値観が多様になり、多様なまま加速し、加速したままどこかに飛んでいってしまったとき、戻ってきたいのは、やはり、人がいる場所ではないでしょうか。
紛らわしいですが、どうしても紹介したいので、「ひと」の一文も紹介します。
「大切なのはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。人材に代わりはいても、人に代わりはいない」
グッときました。
そして、いま思うこと。
またまた紛らわしいのですが、おとといは僕の祖父の命日でした。
物語のじいちゃんとはキャラがまったく違いますが、身近な大切な人のことを、全力で守り続けた、やさしい祖父でした。
これ、じいちゃんに書かされたな。
なんてことを思うのです。
幸せです。