森の力は予想外
前編はこちら>>
森が二酸化炭素の吸収に役立っていることはよく知られたことだろう。そうすると木々が二酸化炭素を吸収して、木々の中に炭素を貯め込んでいるのだと思う。
ところが一番貯め込んでいるのは樹木ではなく、その森の土壌なのだ。実に土壌は木々の六倍も炭素をため込んでいる。二酸化炭素のストックをしてくれているのは土壌なのだ。
そう聞くと根が重要だと思うはずだ。ところが根ではなく、根の周辺に共生する微生物が、根よりも多くの栄養や水分を集めている。
「菌根菌」と呼ばれる根の周囲の微生物は、植物が作り出した炭素化合物や糖分を受けて生存している。その量が大きく炭素を土壌に蓄積させるのだ。植物は自らの根より菌根菌の方を大事にしていて、菌根菌はあり余るほどの炭素を受けているのである。
菌根菌の八割は「アーバスキュラー菌」と呼ばれる菌だ。この菌は陸上に植物が上陸した五億年前から植物と共に上陸した。人工林の中でも多くを占めるスギやヒノキもまた、アーバスキュラー菌と共生している。その力のおかげで生育しているのだ。この菌のない土地では森林は十分に育たなくなる。しかしアーバスキュラー菌は土壌の中にはたくさんいるので、特に不自由なく育つことができる。目にも見えないほど小さな胞子を作り、根と共生するまで休眠しているのだ。
しかしヒトは何をするかわからない。もしかしたらこれらの胞子すら絶滅させるほどの農薬を撒くかもしれない。現に今だって森に農薬・除草剤を撒いたりするのだから。
しかしこの「エコラの森」では、農薬・除草剤など化学物質は一切使わない。
植物が陸上に現れた五億年前から、地球の大気は急激に変わった。原始の地球には酸素がなくて、大気のほとんどを占めているのは二酸化炭素だった。そこに光合成できるシアノバクテリアが生まれたが、それは海中の浅い部分で光合成するので、死滅して炭素が分解するときに酸素を消費する。しかし陸上の森林や土壌では、死滅しても土壌の中に蓄積されて分解されなくなった土壌を作り、そこに埋もれる形で炭素を固定したのだ。おかげで地球の大気の酸素は、植物が地上に上陸した五億年前から急激に増加した。さらに上空に有害な紫外線を妨げるオゾン層を作り出し、その他の生物の上陸をも可能にした。元を辿ると大気中の酸素は、植物と微生物のコンビが上陸したことで生まれたのだ。
その「植物と菌根菌などの微生物」のコンビが、私たち陸上生物の存在の土台となった。私たちにとって、神のような存在である「植物と微生物」をどう扱うかによって未来は決まるだろう。今、かつての地球が貯め込んだ化石上の炭素を使いつくそうとしているために、地球温暖化というしっぺ返しに遭っている。これを防ぎたければそれらを燃やすのを止めると同時に、陸地の土壌に含まれる炭素を再び増やすように努力する必要がある。それは難しいことではないが、それを妨げている一部の者たちの強欲さを抑制できないと難しい。
やるべきことは分かった、しかしどうすれば破壊する者たちを止められるのかがわからないのだ。それでも「ハチドリのひとしずく」の努力をしているのが我々だ。悲しいかな私たちだけでは防げないことを知りながら。
ヒトが生存を続けるために、ヒトは「植物と微生物」だけでも必要なものを賄えるようにしよう。木材で家を建て、「植物と微生物」を食べ、必要なものはそこから得られるものに変えよう。そうすれば、この惑星に生存を確保できるスペースが生まれるだろう。
▲築地書館より「菌根の世界」
二酸化炭素の排出削減を越えて
勘の良い人は私の言いたいことに気づいているだろう。そう、CHP(熱電供給システム)で燃え残ったチップは「炭」なのだ。二酸化炭素の約四倍も炭素を濃縮した「炭」になる。今、地球温暖化を防ぐために世界ではせっせと二酸化炭素の排出抑制しているところだが、ここでは逆に二酸化炭素を炭素の塊の「炭」の形で炭素を蓄積することができるようにしよう。
▲CHPの炭の様子
「炭」は土を豊かにする。それは地中の微生物の住居となり、栄養をも提供するからだ。
「菌根の世界」という本によれば、菌根菌の中で代表的なのが「アーバスキュラー菌」で、木の根の周りに共生している微生物(「菌根菌」)のうち、ほぼ八割はこの「アーバスキュラー菌」なのだ。植物は菌根菌と共生することで成長を助けてもらっている。根は菌根菌に炭素と糖分を送る代わり、水分とリン酸を周囲から集めてもらっている。私たちが植林に使っているスギもヒノキも例外ではない。木を育てるのに重要なのは、単に「木の根」だけでなく、根の周囲に共生する「アーバスキュラー菌」を活性化することなのだ。
面白いことに、それら菌根菌は、「炭」とはとても相性が良い。「他の微生物との競合が起こらない炭の粒子は、菌の生育の拠点に適している」そうだ。海岸林のマツ林の生育改善にも炭が使われている。「炭」を使って根と菌根菌の共生を実現することで、さらに「地球温暖化防止の方法」が見えてくるのかも知れない。
「エコラの森」で進めている森の木材のすべてを利用するのが「ウェスタ・プロジェクト」だ。それは「地球温暖化防止のための二酸化炭素の排出抑制」を超えて、さらに炭素の貯留により「大気の正常化」を進めるのだ。従来、「木」は、「樹」の持つ資源の半分、あるいはほぼ三割ほどしか使えなかった。ところがそれを「根や葉、枝」ですら燃料にすることで、ほぼ百パーセント使えるようになった。
さらに残った「炭」を土壌に撒くことで、「アーバスキュラー菌」の温床になり、木の生育を促進する。「二酸化炭素は出さない」どころか、貯留するのだから「プラスマイナス」の符合が逆転する。二酸化炭素の排出抑制から、炭素の貯留へと変わるのだ。これこそが本物の「バイオマス利用」だと思う。しかもそれは「大気中の二酸化炭素を減らして、酸素を作ってきた」自然の形にそっくりだ。その初めての実現に関われたことをうれしく思う。
田中優コラム、そのほかの記事は
>>こちら