ヒバの魅力
ぼくが好きな木材は、なんと言っても「ヒバ」だ。
ヒバには、蚊やゴキブリ、ダニだけでなく、カビや雑菌、さらにはウィルスまでも寄せ付けない驚きの力がある。我が家では玄関にヒバの板を張っているが、迷い込んだ「やぶ蚊」は「間違えた!」と言わんばかりに外へ逃げていく。どうやら蚊にとってヒバの香りは耐えがたいようだ。
ヒバの香りは、ヒノキのような強い匂いではなく、もっと穏やかでマイルドだ。それどころかアロマにも使用されるほど心地よく、この香りを嗅ぐと、まるで森の中を散歩している気分になる。それにもかかわらず、この匂い成分が雑菌やウィルスを退治し、カビを防ぐのだから、本当に驚きだ。
湿気が多い場所でもヒバはその実力を発揮する。例えば、食器棚に長期間放置されたパンでさえ、カビを寄せ付けない。そして、病院内の雑菌や病原菌、ウィルスを分解し、感染を防ぐ効果まで認められている。この強力な抗菌作用は、他の木材ではなかなか見られない。
木材を溶かす恐ろしいナミダタケ
ヒバの抗菌力を象徴する事例として、以前ここでも書いたことのある「ナミダタケ」を紹介したい。
ナミダタケは腐朽菌の一種で、かつて北海道の断熱された住宅で大きな被害を引き起こした。この菌は木材の主成分であるセルロースを分解し、木材を溶かしてしまう恐ろしい存在だ。そのため、強度を失った木材が「涙」のように垂れることから「ナミダタケ」と呼ばれている。
日本のような高温多湿の環境では特に梅雨時期に湿気が問題となり、室内や壁内で腐朽菌が繁殖するリスクが高い。「高断熱・高気密」の住宅では、壁内や換気の悪い場所にこうした菌が発生しやすい。実際、北海道以外の地域でもナミダタケによる被害は報告されており、「ナミダタケ事件」として知られている。
この菌は見た目が不快なだけでなく、木材を溶かして家を脆弱にし、最悪の場合、床板が抜け落ちる危険性すらある。まさに木造家屋の「天敵」と言えるだろう。
この問題は日本だけに限らない。アメリカでも、腐朽菌による断熱材や木材の崩壊が確認されており、湿気対策は世界共通の課題だ。
ヒバの匂い成分「ヒノキチオール」の力
そんなナミダタケにもヒバは効果を発揮する。
ヒバに含まれる「ヒノキチオール」という成分が、ナミダタケの菌糸を寄せ付けないためだ。この効果のおかげで、ヒバは歴史的にも重要な建材として使われてきた。日本各地の歴史的建造物を支えてきた実績が、その抗菌力の高さを物語っている。
現代の住宅でも、この優れた素材をもっと積極的に取り入れるべきではないだろうか。ヒバの魅力は、ただ美しいだけでなく、家や暮らしを守る力を秘めているのだから。
田中優コラム、そのほかの記事は
>> こちら