前回の続き
ヒバは青森県をはじめ、能登半島で「アテ」や「能登ヒバ」として多く分布している。
このヒバを支えるのが、天然住宅とも協力関係にある石川県の企業「大門システムズ」や「フルタニランバー」である。
彼らの技術や努力のおかげで、ヒバが抱えていた「曲がりやすい」「歪みやすい」という欠点が克服されてきた。
かつては「アテにならない」という語源になるほど、扱いづらいとされたヒバだが、今では通直な繊維を持つ針葉樹として評価され、楽器材への可能性すら見えてきた。
ここからは、この優れた素材をどう生かすかが焦点になるだろう。
能登ヒバと漆塗り
能登ヒバは、古くから漆塗りの木材として利用されてきた。そのため、能登ヒバを漆で仕上げることはごく自然な発想だ。
しかし、漆塗りには一般的に、厚手で年輪模様がはっきりした木材が好まれる。
そうした観点では、能登ヒバは必ずしも漆塗りに最適な条件を備えているとは言えない。
それでも、木地を活かした薄塗りの漆には、捨てがたい魅力がある。
木地を活かした漆塗りの可能性
漆は通常、何度も塗り重ねて厚みを出していく技術だが、薄く塗ることで新たな可能性が見えてくるかもしれない。
木地を活かした塗り方によって、木材本来の質感や性質をさらに引き立てることができるのではないだろうか。
ただし、初めから薄塗りにする手法は一般的ではない。それは漆の持つ特性や良さを最大限に引き出せないためだ。また、漆には「うるしかぶれ」という課題もある。
楽器と漆塗りの課題
日本製のバイオリンやギターに漆塗りしたものもあるが、音響面で見ると今ひとつの印象を受ける。
それは、木材本来の持つ音響的な特性が十分に活かされていないからではないだろうか。
ギターやバイオリンの魅力は、木材そのものの音色を感じさせる点にあるのに、漆がそれを邪魔してしまうように感じるのだ。
漆塗りは能登半島の輪島を代表する伝統工芸であり、その美しさは多くの人々を魅了してきた。
しかし、楽器に応用する場合、木材の持つ特性を最大限に引き出すという点で、残念ながらマッチするとは言い難い。
和楽器と漆塗りの関係
一方、和楽器に関しては、ヒバと漆塗りがマッチしているようにも思えるが、和楽器の音色をそれほど聞いたことがないのでよくわからない。
漆は主に塗料として使われるが、空気中の酸素と反応する化学反応によって固化する独自の性質を持つ。漆に含まれる酵素「ラッカーゼ」が、適切な温度(20〜25度)と湿度(75〜85%)で活性化し、酸素と反応することで液体から固体へと変化するのだ。
この条件を満たすために「漆風呂」と呼ばれる専用の乾燥器具が用いられる。
歴史を遡ると縄文時代に作られた漆器も見つかっており、現在でも使用可能なほど高い強度を誇っている。
ヒバを用いた楽器づくりの可能性
こうした古くからある知識や、伝統技術を現代にも生かしていきたいと思うし、ヒバでの「楽器」づくりは、面白い取り組みだ。
ただ、手を加えすぎると、木材本来の、音を楽しむという「楽器」の趣旨から離れてしまう部分もあるので、色々と試していく必要はあるだろう。
ヒバの防虫効果と住宅材としての価値
前述した通り、ヒバには「ナミダタケ」を寄せ付けないほどの防虫効果がある。
この特性は住宅材としても非常に有用で、天然住宅でも使っている素材なので、新築はもちろん、リフォーム工事の際にもぜひ活用してほしい。
新たなヒバの活用へ
ヒバを活用した楽器づくりについては、フルタニランバーがすすめるアテノオト(能登ヒバ楽器プロジェクト)がある。いろいろ探求しているので、そちらを参考にしてほしい。
アテノオト
それにしても、フルタニランバーさんの活動は素晴らしい。ヒバが持つポテンシャルをさらに引き出し、価値を広げる取り組みを続けている。
僕もメンバーとして関わっている。ぜひ今後の動きに注目してほしい。
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