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世界の文明の転換点|田中優コラム #189

 世界に革命的な事件が起きた。6月12日に「ウォールストリートジャーナル」に紹介された「天然ガスを脅かす蓄電池、変わる米電力業界」という記事のことだ。

https://jp.wsj.com/articles/natural-gas-americas-no-1-power-source-already-has-a-new-challenger-batteries-11621403027
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 日本に比べるとまともな競争原理が働いているアメリカで、アメリカ大手電力会社「ビストラ社」が、これ以上のガス発電所は買収も建設もしないというのだ。代わりに増やしているのは「太陽光発電と蓄電池」なのだ。これは今からガス発電所を建設しても、投資を回収する建設後20年の間には、時代遅れの「座礁資産(浅瀬に乗り上げて動かせず、どうにもならなくなった資産)」になることを懸念したためだ。アメリカの電力会社は投資にシビアだ。日本のように政府に「おんぶにだっこ」されてはいないから、投資した施設で資金回収できるかどうか未来をよく見て調べるのだ。
 

 ガス発電所は「ガス」という化石燃料を必要とするので、当然化石燃料のコストがかかる。ガスの価格は不安定で、実際には政治的意図で価格が上下する。一方、再生可能エネルギーは燃料自体を必要としない。電力会社は、仕入れとして電気を買うことはあるだろうが、少なくても「発電」をしなくてもいい。つまり発電所は必ずしも自分で持たなくていいということになる。従来の方法では、発電と送電で「排熱と送電ロス」が生じる。日本のシステムでは63%もロスする。それとは対照的に、今や蓄電のリチウムイオンバッテリーの性能は上がっており、年間で5%以下しか自然放電せず、その効率は開発に伴って向上している。そのどちらを選ぶかの決定をしたのだ。
 

 この話のすごさは、これが大きな送電線網を持つ大手電力会社の決断だったことだ。小さな地域の電気ではない、大手の電力会社が化石燃料の中では最も優等生である天然ガスを捨てて、「太陽光発電と蓄電池」を選んだのだ。建設してから20年以上のスパンで考えたときに、ガスより「太陽光発電と蓄電池」の採算性を選んだのである。
 

 これはとんでもなく大きなことだ。これまでの化石燃料を捨てて、再生可能エネルギーと蓄電池を選ばざるを得なかったのだ。大きく言えば、化石燃料を用いていた時代への決別だ。しかもこの「太陽光発電と蓄電池」のセットは、我が家にあるように小さな各地の発電に向いていて、大きな電気消費向きではない。それが小さな地域のことならさほど気にしなかったと思うが、そうではない。大手電力会社ですら方針変更しなければならなくなったのだ。
 

 今後世界は大きくターンする。大げさに言えば「文明の転換点」を迎えたのだ。私には「やっと」という気がするが、一般には驚きだろう。世界はこれまでにない方向に動き始めた。
 

 

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