先日、岡山の建築士の友人に妙な話を聞いた。断熱材を入れたとすると、気密のために断熱材自体をビニールで覆わなくてはならなくなるという話だ。例えば天然住宅のようにウールの断熱材でも、グラスウールでも木質系断熱材でも何でも、ビニールで覆わなければならないという話だ。断熱材を湿気させないという意味かと思うが、馬鹿げている。あなたはセーターを着る時にビニールで覆ってからセーターを着るだろうか。寝る時にビニールで覆われた布団で寝るだろうか。断熱材をビニールで包むということはそういうことだ。
こんな馬鹿げた話は岡山だけの、地方行政だけの話かと思った。しかしそれは地方だけではない研修会で、全国的な話だという(後で聞いたら、国交省の省エネ住宅のセミナーの内容のようだ)。
私たちが汗をかくのは、汗が乾燥することによって、身体の表面の熱を気化熱で奪って涼しくするための機能だ。だから汗が出てそれを気化させる。その水蒸気によって周囲が湿気ないように、ビニールで覆うというのだ。もちろん身体から出た水蒸気はそのままビニールに塞がれて外に出られない。すると夏の暑い盛りにウインドブレーカーを着て走っているような状態になる。汗が出るのだが、気化されずにビシャビシャになる。さらに身体は気化熱で表面温度を下げようとして汗を出すだろう。ちょうどダイエットのためにサウナスーツを着て走るような状態になる。ビチャビチャと汗が籠り、手を下ろすと袖から汗が流れ出るだろう。
これがダイエットでなくて、家を高気密にするためだなんてとても考えられないのだ。これが本当に正気の意見なのか。建築の世界はどこかでボタンを掛け違えているのではないかと思う。
家の中の湿気は確かに問題だ。建築物の内部に入り込んで湿気によって虫を呼んでカビを育てるので対策は必要だ。ただ、「だからビニール袋で覆う」というのは安易に過ぎる。これが現在の建物に言われる「高気密・高断熱」の究極の目標なのかもしれない。
しかしこれは気持ち悪い。この水分子はビニールに妨げられて抜けない。その水分子は潜熱を含めてビニール表面で留まり、壁内に閉じ込めてしまうのだ。もしビニールがなければ水分は次の上着なり布団なりに浸透して、やがてその外側で熱を奪って蒸発して水蒸気になるだろう。それが妨げられるのだから壁の内側はビシャビシャになる。
家の中は前回のコラムで見た通り、水蒸気の発生源がたくさんある。それを放置して断熱材をビニールで覆うという。そのビニールの水蒸気発生側は濡れるだろう。それよりは水蒸気がある程度発生するのはやむを得ないこととして、壁を通して外部とゆるやかにつながり、外気に逃げる場所を作った方が自然ではないか。
高気密神話はここに、極まった気がする。
横浜市HPより
田中優コラム、そのほかの記事は
>>こちら