建築確認の検査員
ある晴れた日、引っ越し作業に汗をかいていた。新たな家の外側の木材部分に揮発性のあるワックスを塗っていた時のことだ。建築確認の検査員さんが訪ねてきた。家を建ててくれた工務店と設計士が神妙な顔をして集まっている。ぼくとしては建築確認のせいで、24時間換気のための開口部をつけさせられたり、せっかくの建物にフランケンシュタインのように金物で刺されたりしているので、何とも気分が良くない。しかし検査員さんは一通り家を見た後、わざわざぼくに話しかけてきた。
「久しぶりに良い木材を使った本格的な木造建築の家を見ました。気持ち良い家ですね。とても良い家を建てましたね」
「いや、小さな家ですから」と答えるのがやっとだった。ぼくからすると悪人と対峙しているつもりだったのに、それが正義の味方だったような感じだ。なんだかとてもうれしくなった。
それで自分が区役所の職員をしていた時のことを思い出した。ぼくは可能な限り、法律が間違っているときにはそれに従わなくてすむようにしていた。そして取り締まるのではなく、良い方向に変えてもらえるようにお願いをしていた。そう、そんな考えの人たちも多いのだ。
近所の家具屋さん
友人の家具屋さんの奥さんが訪ねてきて、「ここに来るとずっと居たくなるような心地良さがある」と言ってくれた。彼女は自分自身がアトピー持ち で、家具にも気を使っている。お店の中に居ても臭くないし苦しくならない。しかも家具には手作りの、しかも様々な樹種の木がなるべく無垢のままのものが置かれていて、とても楽しい。ぼくの好きなクスノキで作った洋服ダンスもある。樟脳が取れる木だから最初から虫がつかない。「ビックモリー ズ」さんというお店で、インターネットの楽天にも出店しているそうだ。
「最近は『組手什』の家具もよく売れてますよ」という。
組手什はくりこま木材で作ったものを我が家に置いていて、それを見て面白いと入れてくれたものだ。しかも斜めに組んでチラシを置いたり、角を丸 くしてかわいい棚にしたり、センス良くランドセル置きにしたりしている。
24時間換気の給気口
その検査員さんが帰ると、ぼくは早速24時間換気の開口部に断熱材を詰め込んだ。家に有害ガスを発生させるものを使うようになったから義務付けられたのだ。そもそも有害物質を使っていない天然住宅の我が家には必要がない。詰めるとスースーしていた冷たい風の流れが止まって、気持ち程度だが暖かくなった。