森の管理委託
大場さんはもう一つ、「NPOしんりん」も経営している。ここが動物たちを用いた森の管理を行っている中心だ。ぼく自身もこの団体の理事をしているが、最近ではここで放置されがちな森の管理も引き受けている。世代が変わると森をどう管理したらいいかわからなくなるし、下手すると自分の森の場所すらつかめなくなる。森の大問題は、森が価値を失ったせいで誰の所有かすらわからなくなっていることだ。
そこで国は、管理されない森の所有権を剥奪して、きちんと管理できるところに管理させる方針にした。(田中優「豪雨に負けない森はどこへ…。今国会で成立「森林経営管理法」が日本の山と林業を殺す」マネーボイス)
ところが問題なのは、その「管理」の内容がチップや燃料などの安い木材にすることが基本になっていて、木を存分に役立てられる管理者が重視されていないことだ。
大場さんのところなら、木材を端から端まで使えるし、質の高いものから順に適材適所に使っていけるのだが、量り売りみたいな雑な販売方法に任されてしまう。戦後に財閥として解体された製紙業界が復活してしまうような話なのだ。
「スギわっば」に使われる秋田スギ
そうではない森を活かせる管理を「NPOしんりん」では目指している。だから多くのきちんと管理できないところからの森林管理の委託を受け始めたのだ。
もともとNPOだから利益を求めて始めている事業ではない。「しんりん」がその事業始めると、管理費が高くないこともあって受託が伸びている。それらの森を、くりこまくんえんが実施しているような枠組みの中に入れられたら、森は次の世代に引き継げる森にできるのだが。
たとえば「スギわっば」に使われる秋田スギでは、樹齢が200年くらいのスギを使う。家具でもそうだが、樹齢を経た木は狂いにくい木材となって独特な風格を持ったものになる。政府が作った仕組みでは、何でもチップや燃料にされてしまい、年月を経た大切な森を残せない。そのため秋田スギでは「わっぱ」のために「150年の森づくり」を自治体で始めようとしているところもあるほどだ。
神秘の森の価値
ぼくが岡山に住んで、最初に驚いたのが古い森のないことだった。関東・東北には年月を経た「鎮守の森」のような精霊の住んでいそうな森がある。ところが中国地方では「たたら製鉄」が始まって森は木炭のために伐られ、その後には人々の薪炭利用のために伐られ続けていたのだ。やっと戦後になってから森が再生し始めた。だから神秘的な古い森が少ないのだ。
森には長く森でいることの価値を認めたい。そこから獲れる長い年数を経た木材には、それに応じた価値を認めたい。そんな森づくり、そして森の管理が必要なのだと思う。
粗製乱造のチップと燃料にしか使われない森ではなく、神秘の森にも価値を認めたい。森は年数を経ると、通常の森では得られない価値を生み出すと思う。「森の経年価値」を見出して、社会の中に認めさせるシステムが必要になっている。誰かこれに関わって、新たな価値をアピールできたらいいのだが。
私たちヒトが生まれる前から存在していた森には、ヒトにとってもっと不可欠なものが存在すると思う。でも具体的には言えないから、大場さんにも聞いてみたい。