くりこまの「エコラの森」には、ウシがいる。このウシは下草を食べてもらうために飼っているもので、森の中を自由に歩き回り、とても人懐こくて可愛らしい。でも少し経つと大きくなってしまうので、人によっては怖がるのだが…。最近読んだ本で、分厚いのだけれどとても面白かったのが「土・牛・微生物」という本だ。
この本の主題の一つが土の中に炭素を蓄積させる話だ。地球温暖化を防ぐ「4パーミルイニシアチブ」のもとになったフランスの農業大臣、ル・フォル氏がアメリカ・オハイオ州の農地を訪ねて、その着想を得たことも書かれている。牧草を育てるために植物を植えると、牧草は根の周囲に「菌根圏」を作り、牧草の根が微生物を集めるために液体にした炭素を流す。それによって微生物は体を作ると同時に土壌は炭素を貯蔵するようになるのだ。
そこまでは私にとっても既知の話なのだが、本の中には初めて知る話も出てくる。ウシを移動させながら高密度に放牧すると、草を食べるのに競争になるので好き嫌いを言っていられずにどの種類の草も食べるようになる。そして草はどんどん食べられることで生存に圧力がかかり、より一層液体炭素や糖分を出すようになり、成長が早くなる。つまりそれだけ土壌に蓄積される炭素分が増えるのだ。
ウシは子どもの時から森で育てると、草を食べるとき、葉を噛んで引きちぎるようになる。大人ウシになってからだと歯をそのまま食むだけで、引きちぎることをしない。これはヤギや羊の食べ方とは大きく異なる。ヤギや羊は草を噛むとスナップを効かせて根まで引き千切る。ヤギや羊が砂漠化を進めてしまうのは、この食べ方の違いのせいなのだ。あくまでウシはソフトに齧り、根に振動を与える程度だ。
しかしこの振動が草にとっては「アラート」になる。その信号が届くと、より一層の緑を生産させるのだ。「菌根圏」を発達させるために植物の根は一層「液体炭素」や「糖分」を出すようになり、成長が早くなる。つまりそれだけ土壌に蓄積される炭素分が増えるのだ。だからウシを「高密度」に、時間を空けて放牧すると良いのだ。
もちろん私たちとしてはここの土地にさらに「炭」を混ぜ込みたい。土に入れた炭はなくなるまでに非常に長い時間がかかる。放射能が安定化して減っていく時のように、半分に減るまでの期間を「半減期」で測るが、炭はなんと数千年の半減期なのだ。数千年たってもやっと半分に減るだけなのだ。この木炭を撒くことに加えて、ウシが草を食んで炭素を引き出す。この二重の効果によって炭素を土壌に蓄積できる。しかも「エコラの森」は森を育てているところだ。草よりはるかに効率高く樹木は炭素を貯め込んでくれる。ぼくらとウシの植林活動は、何重にも効果を持つことになるのだ。