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リモート礼賛|田中優コラム #178

 
リモートワークばかりになって、なんだか最近、リモート講演依頼が増えている。交通費の捻出に悩むこともないし、遠くでも関係ない。だから講師料も低額で提案しやすいおかげもあるのだろう。
 
先日頼まれたリモートで、「気持ち良さそうな家ですね」なんて褒められた。バーチャルな画面を設定するのも面倒で、そのまま部屋を映しているからだ。学校から帰ってきた子どもがリモートに参加したりするのが難点と言えば難点だ。
 
とにかく出掛けなくていいのはありがたい。会議は東京だったり、授業は横浜だったりするのだから、これまで数年間、よく通っていたものだと思う。出掛けるのが好きで、新幹線でゆったり過ごすのが好きだと言ってもほどがある。それらの生活の多くの時間を占めていたのが列車内だと思うと、やっぱりがっかりする。
 

その代わりと言っては何だが、「ステイホーム」の時間が長くなる。その家がかつてのような狭い部屋だったり、窓を開けても隣の壁しか見えない息苦しい状況だったら苦しくなる。その点、今の場所は田舎の上に、目の前に小さな山があり、庭には柿の木が植わっている。今年は柿が当たり年で、とても全部は食べきれなかった。もったいないが小鳥の食料に残していた。目の周りが白い黄緑の小鳥がたくさん集まる。まるで柿の木なのに、小鳥の成る木みたいだ。目の周りが白い小鳥は、その見た目の通り「メジロ」だそうだ。
 
講演や授業が終わると庭に出て背伸びしてみる。免疫には呼吸が大事だと聞くが、肺の中の細胞ひとつ一つにまで新たな酸素が届くようだ。こんな中に生きていられることに感謝したくなる。
 
リモートの機会は、長い通勤時間や意味のない時間を客観視させた。なんと無意味に忙しくしていたのだろうか。それは実質「ワーク」ではないものを「ワーク」のように見せかけていただけのことなのかもしれない。
 
最近リモートのために「光回線」を引いた。回線速度を安定させるために必要になったからだ。それ以外にはヘッドセットが一つ、後はたいした買い物もしていない。ほとんどのモノが足りてしまっているのだ。その代わり、あれこれ幸せな思い出を思い返しては過去の色彩を味わうことが多くなった。
 
かつてのぼくは、何であれ過去を思い出すことなどしないようにしていた。生産的でないと感じていたからだ。 
でも思い出を味わう時間も大切なのかもしれない。今まで見つからなくなっていた色彩に気付くことができるからだ。
 
そんな気持ちでいられるのも余分で悩ましい雑事がないからだ。寒さ、暑さだって、空気の匂いだって、煩わしい雑事を連れてくる。ぼくの至ってシンプルな暮らしの中心には、この天然住宅で建てた家がある。それって調理の出汁みたいに、暮らしのベースを作るのかもしれない。
 

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