天然住宅に住んで10年に近くなる。天然住宅の「森の中にいるような空気感」は当然なのだが、それとちょっと違った心地良さがある。何なんだろう、この安心感は。
今年は梅雨入りが早く、時期も長かった。しかし、じめじめ感がない。室内干しした洗濯物もカラッとまでは言わないがきれいに乾くし臭いもない。
梅雨で湿気が多くても室内は毎日変わらない。岡山の気候のせいかなとも思うが、どうも違うみたいだ。そう考えてやっと気づく。要は木材を無垢のまま低温で乾燥させて、まるで生きた木を乾かしただけの空間にいるからだと。
今どきの‘きれいな’室内の木材は、本物の木材ではなくて、本物そっくりにプリントされたシールが貼られただけのものが多い。それはプロが見ても騙されるほどの品だ。ところが違うのは吸い込むことのできる水分量だ。
確かに家具材によく使われるMDF(中密度の繊維板)もよく水分を取り込む。しかしそこから先がまるで違う。MDFは呼吸しないから、一旦閉じ込めた湿気を排出できずにわずかずつ膨れながらカビだらけになる。これは何日経っても乾燥せず、元に戻らないのだ。
それに対して天然住宅の住宅なら生きている時の性質のままだから、乾燥すると元通りの板になり(歪むことはあるが)、何事もなかったかのように使えるのだ。この違いが重要なのだ。
木材は、たとえばスギの柱一本でビール瓶一本分の水分を蓄えられるという。たかだか一本の柱で。
我が家は板倉造りで、壁はすべて木材を重ねて建てているから、通常の住宅の四倍ぐらい木材を使っている。「三倍くらいですかね」と建てた工務店の人に言ったら、「四倍以上だと思いますよ」と言われた。
そのものすごい吸湿材に覆われているのだから、家の中の湿度はいつも変化しないように保たれているのだ。以前の古民家では、同じ木造なのに押し入れなどに湿気がたまってカビ臭かったが、今の家では押し入れの布団も湿っていない。
さらに日本一、年間の「1ミリ以上の雨の降る日」が少ない岡山の気候のおかげで、カラッと暮らせるのだろう。もちろん吸い込んだ湿度は乾燥した日に吐き出してくれるから、湿度のコントロールに役立ってくれるのだ。
心配なのは、蚊や小さな虫も嫌がるスギとヒバの成分が、時間が経つうちに抜けていくのではないかという心配だ。建築屋の友人が「まだ家に入ると匂いがするよ」と言ってくれたし、現実に蚊は入ってこないままだ。まだ大丈夫だと思う。
ただ見た目では梁の柱にヒビが入っている。強度に問題はないが、どうにかできないものか、とも思う。
こうさせないためには「芯持ち材(材料に芯が含まれる材)」ではなく、「芯去り材(材料が芯を持っていない材)」であればいいのだが、我が家の木材の産地である宮城県大崎市の山中では、冬場の気温が低すぎて「芯去り材」がたくさん取れるほど木が太くならない。我が家の木材はその大崎市から運んだ木材なので、「芯持ち材」なのだ。
しかし割れが入るとしても強度に影響する程でなく、ゆっくり育った分だけ木目が細かく強度がある。それを低温で乾燥させてあるので中身もスカスカになっていない。
この材料が住む人の湿度とシンクロしているのだ。住まう人の湿度と住まいがシンクロしていることが、心地良さの理由ではないか。
寝入り際には山からの冷たい風が流れ込んで、まるで森の中に暮らしているようなのだ。
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