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身体をビニールで包みたい?|田中優コラム #208

 
 以前、断熱材をビニールで包むという話をしたが、同じことはもちろん服装でも起こる。なんとこれを示す「衣服内気候」という言葉すらあった。図のようなものだ(図1)。
 

出典:衣服内気候からみてよい衣服と悪い衣服
https://www.toyobo.co.jp/seihin/ifukunai/ifuku5.htm

 
 身体は、熱ければ汗を出して気化熱が表面から温度を奪うようにできている。そうすることで体温を調節し、快適な状態を保とうとしている。衣服はその機能を助けている。しかし、衣服の選択によっては、その機能を妨げてしまう可能性もある。一旦気化した熱は滞留する(逃げ場がない)状態になると、プラスマイナスゼロになろうとする。つまり、気化した(熱を持った)水蒸気は周囲に熱を発散し、再び水になろうとする(図1)。そのような汗を吸わない、もしくは吸っても吐き出さないような衣服は不快だ。だから、気化した熱を持つ水蒸気はうまく湿気と熱を逃がしてあげることが得策だ。
 
 ところが、もしその水蒸気がビニールのような素材で包まれてしまうとしたら、水蒸気のままか、身体に熱を届けて水に戻ろうとする(気化熱が戻ってくる)。身体の熱は冷やされないか、水に戻ってプラスマイナスゼロにされてしまう。そうなると、体温の調整には役立たない。つまり、衣服の役割は「汗をよく吸って、外気へ多くはき出す」ことであり、そういう衣服ほど「衣服内の湿度が上昇しにくく快適」なのだ。
 
 それを図1で見ると、汗による「熱」を衣類の外に少量捨て(ある程度残し)、水蒸気を外に大きく捨てるのが、「衣服内環境」としては一番良いのだ。ところがビニール(服の素材で言えば従来の「ナイロン」や「ポリエステル」などの化繊)のような素材は水を透さないから、水蒸気を閉じ込めてしまう。それは「衣服内」という環境ではちっとも自然ではなく、不快なのだ。
 
(※ただ衣服の場合、特殊な吸水加工をしたポリエステルは、汗を保持せずにうまく放散させる優れた素材として広く利用されるようになっています。汗を衣服が積極的に放熱させるような技術が発展しています。)

ミツカン水の文化センター 機関紙「水の文化」第21号「適当な湿気」参照
https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no21/04.html

 
 住宅というのも身体から見たら「外部環境」そのものだ。その外部環境が水蒸気を通さないのであれば、身体の気候にとっては全く不自然で、不快な環境となる。せっかく身体が熱をもつ水蒸気を外部に捨てようとしているのに、ビニールの内部に閉じ込めてしまうからだ。

 ところで冬山で遭難した時に、生還する可能性の高い衣服の素材がある。それがウールだ。ウールは出された身体からの水蒸気を受けとめながら、ピチャピチャにならずに乾燥しているからだ。ウールはその内部に水分を閉じ込めていて、それを少しずつ放出してくれる。それが身体を暖かく維持してくれるのだ。中でも「メリノウール(メリノというのは羊の種類)」は特に良いとされている。今回調べたおかげで「メリノウール」の肌着を買ってしまった。現場でよく使われているワークマンのものが抜群に安かったが、品切れのためメルカリで高くなっていたがそれを買った。スタッフに聞くとパタゴニア製品にもそのラインナップがあり、おすすめだという。

 さてこのことは住宅でも同じではないか。住まいをビニールで覆うのは良くないと思う。生活から出る熱をもった水蒸気を外に出せなくなるからだ。建物の断熱材としては「グラスウール」は気密化するのにも適しているのでよく使われているが、これはビニールで包まれた断熱材だ。断熱性や気密性は高いかもしれないが、快適性はどうだろうか?
 
 天然住宅の断熱材はウールそのものだ。保湿も透湿性能もある断熱材だ。天然住宅がウールブレスを使う理由がおわかりいただけるのではないだろうか。
 
 建築物もまた人体から見ると外部環境だ。その断熱材は正に建築物の衣類そのものだ。「高気密」という言葉に惑わされず、適度に通気性のある建物の方が望ましいと思う。
 
 

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