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旅の宿の憂鬱|田中優コラム #211

春休みの期間に一人出掛けてきた。妻と子が実家に遊びに行き、何の用事もなかったので、春を感じたくて高知県にドライブに出掛けたのだ。
 
外に泊まる時、気になるのがホテルの臭いだ。「VOC」と呼ばれる揮発性有機化合物(常温で蒸発しやすい有機化合物)の臭いがあったら休むどころか翌日には頭痛や喉の痛みに悩まされてしまう。このことの心配もあって以前に問題なかった宿をつい選んでしまう。
 
今回も以前に臭いのなかった宿に泊まることにしたのだが、いざ泊まってみると臭いはなかったが、テーブルも木材の表面もピカピカ光っていた。これは…「ウレタン塗装」だ。
 
以前くりこま木材の大場さんが言っていたことを思い出した。
「本当の木材には触ることもできないんですよ。きれいだと思ったらプリントされたものが貼り付けてあったり塗装されていたりして、ぼくらプロだって見分けられないようなものがたくさんあるんです。木材に触れているつもりがビニールだったりして、実は直接木材には触っていないんです」。
 
それでも臭くはなかったらきちんと乾かされているのだろう。
塗料に含まれていて有毒なのは、「イソシアネート」という皮膚や粘膜、呼吸器障害、神経障害を起こす発がん物質だ。それに触れたり体内に取り入れてしまうと、免疫グロブリンE(普通の免疫過剰を起こす)を活性化させてアレルギー反応を起こす可能性がある。とても有毒なものだが、よく乾燥されていて剥がれたりしなければ問題を起こしにくい。

我が家はくりこま木材から直接送ってもらった無塗装・無着色の無垢材を使い家を建てている。
旅に出て、かえって身体に悪いものを取り込んだら旅も台無しだ。触って確認したので、もうこの宿に泊ることはないだろう。良い宿だと思うのにとても残念である。
 
同じイソシアネートのウレタン塗装は箸にも使われている。口の中に入れるものだし、いつの間にか箸をかじってしまうこともあるので、それは困る。
 
夜寝るときに暑くて足を出して寝たら、板の間の部分だけとても冷たかった。ウレタンの塗装面は金属みたいに熱の伝導率が高い。そのせいで触れた足が冷たく感じたのだ。
旅に出るより家で寝ていた方がいいというのは残念だ。なんとも旅の宿選びが憂鬱になるが、それくらいウレタン塗装というのは一般的なのである。
 
無垢の中で過ごすことができる天然住宅は、私には一番安心できる場所だ。
 
 

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