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自分なりの住宅の手入れ|田中優コラム #225

 
私自身が天然住宅に住みながら手入れの仕方を思う。整頓するという意味で「きれいにする」のは良いが、美しくするための手入れは自然素材の家ではちょっと違うのではないかと思う。といって私自身がまったく見てくれを気にしないという訳ではもちろんない。「何をきれいと思うか、そう思わないか」のちょっとした違いなのだ。 

たとえば床に木の枝が伸びていた跡の節がある。同じ節でも枯れて跡が抜けてしまうものを「死に節」といい、単に色が違っているだけで抜けていないものを「生き節」という。強度は節がある方が強いのだが、どうにも一般的には「節あり材」は嫌われる。おかげで節のない木材が高値で取引きされ、節が出ないように手入れされた木材が高く売られる。
 

 
しかし木を節なく育てるには手間がかかる。スギは育つにつれて下の枝が勝手に枯れていき、太くなるにつれて節になりにくいのでいいが、ヒノキはそうならない。下に生えた枝は切り落とさなければならない。そうしないと節ありの木材になってしまう。そして木の芯の部分が含まれた材は割れやすい。だからあらかじめその割れを一方方向にコントロールするために「背割れ」を入れておいたりする。
 
たとえばそんな場合の「節」や「ひび割れ」を、ぼくは見た目が悪いとは思わない。大工でも「宮大工」の人たちにはそんな美的センスを持つ人もいて、無節や割れの入らない配慮を施すこともある。ぼくにしたらそれは隠す必要のないものだと思う。だから床板の節や、色の濃淡は全く気にならない。

 
それよりはるかに気になるのは木材の色艶、そして香りだ。絶対に木材(や自然界)にないはずの「青色系統」や「接着剤やシンナー臭」の方が違和感をおぼえる。だから室内に置かれたものの匂いの方が木材より強くなったら、これはまずいと思う。子どもの靴やゴミの匂いが木の香りより強くなったら、それは汚れていると感じる。そんな事態になったらどうしてもきれいにしたい。

建ててから10年近く経って、木材の匂いを感じなくなった。毎日そこに住んでいるから感じなくなっている部分もある。現にしばらく出かけていた家族が家に戻ると、「木の匂いがする」というのだから感じなくなった部分が大きいのだと思う。しかしもう一つ、家の中に蚊が飛んでいたら「要注意」だと思う。木材の蚊や微生物、ダニなどに対して効果が乏しくなっているからだ。
 
それで先日、木から取った精油分(ヒバエキス)を木材表面に塗ってみた。塗ると言っても極めて薄く、水で薄めた液をわずかに染み込ませた紙モップで壁を撫でただけだ。というのはヒバは匂いが強すぎて、一日中過ごす家の中の匂いとしてはきつすぎるのだ。これによってもし板の色が飴色に濃くなってしまったとしたら、それは人が住んだ形跡として大切に思いたい。今のところ色の変化もないし、匂いもしなくなっている。
 

 
それと同じで太陽光発電設備や必要な配線も隠す気にならない。設計者や工務店によっては配線コードに恨みでもあるのかと思うほど丁寧に隠す人もいる。我が家では逆に、一部の配線を碍子(ガイシ)と共に残している。隠すより必要なものなら出したままが良いと思うのだ。メンテナンスするにも隠されていなければ簡単だし。
 
次には外壁の木材部分が煤けたみたいに灰色がかってきたので、その部分の保護と合わせて自然塗料を塗ってみようと思う。陽と風が当たるので、無垢の木が変色するのは仕方がない。変色はするが嫌な感じは全くしない。古材のような風情を残した外観にしたいと思う。そんな楽しみ方ができるのも、自然に乾燥させた木材だからだと思う。要は木材が傷むのではなく枯れて、腐るのではなく枯れた風情を漂わせながら発酵するようにしたいのだ。
 
しかし残念なのは、この家はそうやって変化しながら数百年残るはずだけど、その姿を自分の目で見ることは叶わない、ということだ。
 
 

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