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次の世代に引き継げる林業に|田中優コラム #6

育てるべきは「森より森を守る人」



「自伐林業、女子林業」も「馬搬」も、森を守りながら林業コストを下げて、木材費を安くするための活動だ。そのおかげもあって他の林産地と比較しても安く木材を生産できるようになってきた。

ひどい買い叩きに遭わなければ、森林の補助金を得なくても(植林の補助金は受けるが)、他の木材と同様に市場価格で販売しても黒字が出るレベルになった。

残念ながら「くりこま木材」は、いわゆる「銘木」として高く売ることのできる地域ではない。しかしだからこそ、ここで成り立つなら日本中どこでも成り立つ仕組みになる。だからこだわっている。ここで税金を投入しなくても成り立つ森林経営ができるなら、他の地域でも自発的な活動で森が守れるようになるからだ。
 
そのために高付加価値な木材生産にもこだわっている。その話は後でしよう。
高付加価値化の話ではなく、どのようにしてコストを減らしてきたかが先だからだ。

「天然住宅は高い」とよく言われるが、健康に対するこだわりや長寿命の性能、森に対するきちんとした対応を考えてもらえば決して高くない。しかしいくらそう空威張りしたとしても、現に買ってもらえる価格にならなければ元の木阿弥だ。誰も買う人のいなければ、『水たまりに釣り糸を垂れる』のと同じだ。価格的にも買える範囲にする努力を続けている。

森と街を直接連携して家を建てる




商品は間に事業者が入れば入るほど高くなる。たとえば木材を買い付けて、製材して、乾燥させて、仕上げをして、刻みを入れて組み立てて売る。

これをそれぞれ別な事業者に頼んで30%ずつ利益を乗せられたら、100円は130円、169円、219円、285円、371円、483円と上がっていく。六つの事業者が入るだけで483円になる。しかしそれらがもし30円ずつ上乗せしただけなら、180円足して280円ですむ。これが単利と複利の違いだ。
 
それならなるべく同一の工場の中で製材から刻みまで、生産から販売までしたい。

そこで天然住宅では、この部分を一貫生産に変え、天然住宅がくりこま木材と一緒に建てていく形にした。さらに木材を購入するだけでなく、エコラの森の中て「植林・下草刈り・間伐・枝落とし・第二次間伐・伐採」までもすることにした。
すると中間で間引かれていた費用が戻ってくる。この仕組みのおかげで他地域と同じ木材価格だとしても利益を生み出せる状態にできたのだ。

山に牛を放ったのも、育林コスト中最大の「下草刈りコスト」を下げるためだ。木質ペレットを生産し始めたのも、木材滓を捨てずに高付加価値のものとして販売するためだ。こうした努力の結果、今のレベルになった。

広葉樹・針葉樹のモザイク状の森に



しかしこれで終わりではない。
さらに自伐林業のような小規模林業を実現していくことで、大きな林道の要らない持続可能な林業にしたい。それは今までのようなスギ・ヒノキの針葉樹中心の森ではなく、多様な生物が生きられる広葉樹をモザイク状に入れた森になる。
そのためには広葉樹を活かせる建築法が必要だし、広葉樹を使える材として育てる技術も必要だ。

『…でも待てよ、くりこまの森の樹齢は50年程度だ。ということは戦後の「拡大造林期」に植えられたものだろう。ということは…』

「大場さん、この辺では20~30年前はどんな木材で家建ててたんですか?」

「ブナ、マツ、クリ、何でも使いましたよ」

そう、ここにはまだスギ・ヒノキではない建築技術が残されているのだ。育て方はどうしたらいいのだろうか。
自伐林業の見学で、面白い発見をした。必要な一本の木だけを伐採する「択伐」の跡地は、真上にしか日が当たらないので、どんな木でもまっすぐ育つのだ。あのぐねぐね曲がるはずの桜の木がまっすぐ育っている。それならば広葉樹も育林することができる。

しかし育つのが早いスギでも50年、ヒノキでも100年かかる。広葉樹ではもっと長くて、200~300年かかる。くりこまの大場さんが言う。

「だから我々の代だけでは不可能なんですよ、森を守ってくれる人を育てないと。子どもの代、孫の代もぼくらと同じように考えてくれないと無理なんです。子どもたちの代の教育が大事なんです」と。


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