湯守りの森の小屋
鳴子温泉の「大沼旅館」のご主人が持っている森がある。かつて人が住んでいたなだらかな土地だが、大沼さんの親の世代に人がいなくなって植林した森だ。大沼さん自身がうろ覚えだったという場所だが、そこを温泉を守るための「湯守りの森」として手入れを始めた森だ。手入れする前はスギばかりが鬱蒼とした暗い森だった。しかし手入れした今は、きれいな明るい森になっている。しかも次世代の混交林にするために残した広葉樹が、日差しを受けて急に成長し、ほれぼれするような森に戻りつつある。
そこに建てられたのが「板倉造りの小屋」だ。用途地域にもよるが、一般的には6畳一間の小屋を建てる場合は建築確認がいらない。その大きさぴったりの小屋なのだ。しかもこの小屋には伝統的な技術の粋が入っている。もちろん木材は金属を使わずに伝統的な仕口・継ぎ手でつなぎ、壁は4センチある厚い板を積み重ねて組み上げる「板倉造り」が使われている。建物はきちんと断熱され、建物の中にはロフトがあって6畳一間に加えて寝室が上にある。基礎は地震国日本に合った「石場建て」にしてある。よくお寺の基礎が石の上に乗せられているが、あの方が地震のときにずれるだけで、建物を壊さないのだ。しかも断熱のおかげで冬場も十分暖かい。
頭に花が咲く小屋
でもこの小屋は、ちょっと凝りすぎたのではないかとぼくは思う。屋根を土にして、そこに植物が生えるようにしてあるのだ。冬、春とこの小屋を見ていたが、そのときはそんなもんかと思っていた。でも今回はびっくりした。屋根の上に色とりどりのユリが咲き誇っているのだ。
「いいでしょう? ユリの球根も植えたんですから」と大場さんが言う。
きれいではあるのだが、建物の屋根に花が咲くと人の頭の上に花が咲いたみたいで、なんだかアホに見えるのだ。
「うん…、いいですね?」
このアホっぽいムードをほめるのは難しい。住みたいと思うけど、頭のてっぺんに花が咲くのはいかがなものかと。
▲板倉づくりの小屋
頭から百合が咲いています。
大人の隠れ家
この建築確認のいらない小屋は、キットの形で買うことができる。大場さんに確認すると、このキットで150万円だという。ぼくの家の敷地は160坪なのに建てる家は12坪しかないから、残りの土地にこの小屋を建てたいと思っている。ただし屋根の花はいらないかな…(もともとキットに含まれていない)。
ただし建物の木組みは本格的だから、建てるのは思うほど簡単ではない。そこで小屋造りワークショップも開催するのだそうだ。チェーンソーの使い方から講習する。もちろんチェーンソーの資格も得られる。チェーンソーというと「ジェイソン」という名前が浮かんでしまうのはぼくだけではないだろう。もちろんそんな使い方はダメだよ。
これを設計してくれた安藤先生は泣く子も黙る筑波大学の伝統建築の大家だそうで、子どもの頃を鳴子温泉周辺で過ごし、小屋という「大人の隠れ家」を楽しんでみたいと思ったそうだ。そう、「大人の隠れ家としての小屋」っていうのがなんだかうれしいのだ。ぼくら大人はいつしか遊びを忘れてしまう。だけどやっぱり一生涯、遊びと一緒に過ごしたい。固いカオしかできない大人になんかなりたくないよね。