高知県四万十市の興津海水浴場
岡山に住んでいると四国が近い。高速で本州四国連絡橋を走るとすぐ四国に入る。四国には美味しいうどんを出してくれる店がたくさんあり、しかも安い。ちょうど夏休みでもあるので、美しい浜を求めてドライブに出かけた。
水質が抜群に良いとされていたのが高知県四万十市の興津海水浴場だった。行ってみようと調べると、高速を降りてからの距離はたいしたことがないのに、所要時間がえらくかかる。不思議に思いながら走っていくと、納得するほどの切り立った山をくねくね下っていく山道が待っていた。ナビは「目的地に到着しました」と終わってしまったが、どう見ても海水浴場ではない。近くの人に聞いて、やっと到着する。
きれいな海と原発
海を見ようと砂山を登っていくと、反対から来た若者が「込んでいるけど大丈夫」と仲間に教えていた。『込んでる浜はいやだな』と思いながら登ると、人はほとんどいない。ここではこれが「込んでいる」状態なのかと思う。
水は恐ろしくきれいで、波も大したことはない。「防波堤の近くはエイがいるから行かないようにね」と監視員の人の注意を受けつつ浜にパラソルを立てた。100円のコインシャワーもあるし、トイレもきれいに整備されている。監視員さんが他の人と話しているのが耳に入った。「…この間、福島の飯館村に除染に行ってきたんだ」と話している。そして最後に「ここに原発が建たなくて良かった」と聞こえた。
そうか、今は四万十市に併合されているが、ここは窪川原発の予定地だったんだと気付いた。原発が建てられる場所はたいがい最もきれいな場所だ。しかも過疎地で海との間に屏風のような山があるのだから、原発立地に狙われそうな場所だ。
海を守った人たち
しかしここの原発はチェルノブイリ事故の後に中止になった。島岡さんという保守の立派な人がいて、その人が頑張って止めた場所なのだ。そのことは以前に原稿に書いたこともある。そう思うと今波と戯れながら遊んでいること自体が、彼と地元の人たちの反対運動のおかげなのだなと思う。島岡さんは暴漢に襲われたり、車に引かれたりしながらも一歩も引かなかった。ぼくは島岡さんに無性に会いたいと思った。会ってお礼の一言ぐらい言わないと、この地で遊ぶのが憚られる気分になったのだ。
ぼくの記憶の中に、もうひとつ聖なる場所ができた。たくさんの人たちの努力によって、やっと残された土地だ。今の時代のせいか、美しい場所はただ残されているようには思えない。残したいと願う人々の思いがあるのだ。その同じ四国電力は、中央構造線の間近にある伊方原発を8月12日に再稼働させた。なんとばかげた話だろうか。