イニシャルコストとランニングコスト
すべての買い物には「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」がある。簡単に言うと買う時の費用と、暮らしているときにかかる費用だ。たとえばパソコンにつなげるプリンターなどは異常なほど安いが、そのあとのインク代が恐ろしく高くつく。安いインクも売っているが、それを使ったら「製品の保証外だ」なんて書いてある。そうやって高いインク代に導くことで、ランニングで儲けるために、破格の値段でプリンターを売るのだ。
これは携帯電話代でもよくあることだ。「携帯電話、実質0円」なんて書いてあるものもある。もちろん「ランニング費用で稼ぐぞ」という意味だ。文字通り「タダほど怖いものはない」仕組みになっている。
建てた後のことも見据えて
住宅も同じだ。ハウジングメーカー側は、とにかく住宅を売ればいい。しかも最初に負担する「イニシャルコスト」が大きいのだから、これを安く見せるためにあの手、この手を使う。「坪単価○万円」という数字もそうだ。もしくは「○○万円!」なんて表示も使う。実際に建ててみるとその金額では収まらないのに、「あなたがオプションを選択したからです」と言って高い金額を納得させる。もしくは本気で手抜きをする。
それでも売ってしまえば、あとは10年間の「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」を徒過させればいい。「瑕疵」とは傷のことで、その責任を担保させるものだ。実際には保険があり、保険で担保されるが何度も保険を使えばそのメーカーの保険料は高くなってしまうので、なるべく使いたくない。そこで10年気づかれないようにするか、その後に壊れる程度に建てておく。その先にどんな被害が出て来ようが「瑕疵担保期間を過ぎているので施工できません」で足りるのだ。
メーカーは売れさえすればいいのだから、その後のランニング費用はどんなに高くついても構わない。住宅で大きな差になるのは光熱水費だ。これは「断熱性能」の違いで大きな差になる。冬にガタブル震えるような断熱材なしの寒い家でも、住んでからの暖房費に困るだけだから、夏にでも売ってしまえばいい。断熱材は隙間の出ないように入れなければ無意味になるが、その施工が雑だったりまともに入っていなかったりする。しかも断熱材に有害化学物質を使い、接着剤だらけのベニヤ作りでも基準以内であれば問題ない。入居後に化学物質過敏症になってしまったとしても。天然住宅に相談に来られる「シックハウスを建ててしまった人たち」には、驚くほど大手メーカーだ建てた人が多いのだ。
腹が立つほど無責任なハウスメーカーがたくさんある。
責任をもつための「こだわり」
天然住宅はそこが違う。基礎コンクリートを打つ時点で頑丈に設計して打設し、コンクリートの寿命が300年以上になるように打つ。天然住宅では「こだわり」が多すぎて、いちいち説明しきれない。だからお客さんにはパンフレットや本をよく読んでくれている人が多い。
断熱性能も高く、安全で強い住宅だ。それを有害化学物質ゼロで実現する。シロアリの防蟻剤が要らないほどシロアリの嫌う木材を使い、虫は湿気に寄ってくるので壁の内側に湿気が溜まらないように設計している。
「天然住宅は敷居が高い」と言われようが「高い」と言われようが、人が暮らす家なのだから妥協できない。瑕疵担保責任期間の10年だけ持つように作るのなら簡単かもしれない。しかしそれでは建主さんを「アリジゴク」に突き落とすようなものだ。
そのハウスメーカーの展示場に立つとき、そこが「アリジゴク」の入り口であるのかどうか見極めるだけの緊張感を持ってほしい。それだけで未来は変わるのだ。
そんな当たり前の「住宅教育」が必要になっている。
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