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百年で一センチ作った土を洪水で流すな | 田中優コラム#159

世界で進む土地の破壊


この写真は中国の「長江(なぜか日本では揚子江と呼ぶが)」の様子だ。造らなければよかった三峡ダムを長江に作ってしまったから、今豪雨に襲われているために、「ダム決壊」の不安に襲われている。もし、この「三峡ダム」が決壊すると、中国の1/4が冠水し、影響を受ける人間が6億にも達するという話があると聞く。

しかしぼくが気になるのはこの川の水の色だ。真っ茶色に濁っていて、川に膨大な土壌の土が流れ込んでいることは明らかだ。これが何を意味するかというと、膨大な土壌を流出させているということだ。日本で「土」と聞いても、あるのが当たり前のように感じてしまうが、土は百年で一センチ作られるというほど時間のかかるものだ。土は単なる無機物の塊ではない。そこに育とうとする植物と、菌根圏に共生する微生物や菌類がやっと作り上げる有機物なのだ。よく豊かな土地と言われる土壌は大概黒々としていて、その中に生息する微生物はたった一立方センチに一億も存在している。特に農民が豊かにした土地では、他の土地にいる微生物の数十倍も生存している。

土の豊かさの指標は、その中に棲む微生物の量と多様性なのだ。

どれだけ多様な微生物が、どれほど生息しているかが土の豊かさなのだ。豊かな土では連作障害が起きにくく、微量のミネラルを含み、雨にも流されにくい。これらの現象はすべて、植物と、共存する微生物によってもたらされている。この貴重な、百年で一センチしか作れない土を、農薬で殺し、化学合成肥料でつながりを壊し、重い耕作機で耕すことで叩き潰して壊しているのが、今の「大規模農業」や一般に行われる「慣行農法」なのだ。

そして農地を守りたければ豪雨が地表に叩きつけないように、直接の直射日光に焼かれないように地表は被覆作物に一年中覆われていて、地表から15センチを超える深耕は行わず、微生物と植物の共生関係を壊さないように、化学肥料を使わないことが大切だ。

植物が根から糖分や水溶性の炭素などを出すのは、水や微量のミネラルなどを集めてもらうために微生物に与えているものなのだ。それが必要なければ植物は微生物の栄養分まで垂れ流したりしなくなる。つまり土地は痩せたものになる。

それを考えながら長江や世界各地で起きている水害の様子を見てほしいのだ。その真っ茶色に濁った水は、大切な大切な土壌にやっと育った土の有機分なのだ。土の乏しい地域から見ると、あの豊かな土の流れ出た濁流は願っても得られない大切なものだ。その土を含んだ大切な土壌が、洪水と共に流れ去ってしまうのだ。なんと勿体ないことだろうか。

透明に澄んだ小川に一かけらの土を流してみても、水は溶かしこんでしまって水を濁らせもしないだろう。ではどれほどの土壌を流せばあれほどの濁流が作れるのか。我が家ではすべての有機物である生ごみを焼却所に出すのをやめた。簡単なコンポスターを買ってきて、そこに入れるようにしただけだ。それが庭の一角の菜園の肥料になる。そこには今、枝豆用の大豆が育っている。

たったそれだけのことが、どれほど大きな意味を持つだろう。それは共生する菌類の糸状菌によって野菜に運ばれ、野菜はその微生物のために液体化した炭素を届ける。そして私は暑い夜に冷えたビールと共に枝豆を食べるのだ。電気は太陽光発電が、水は井戸が、お湯は太陽熱温水器が作ってくれたものだ。私は自然の恵みによって豊かに暮らせていると思う。

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