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「Farm to Fork」の第一歩|田中優コラム#162

EUは新たな戦略として、「Farm to Fork(農場から食卓まで)」を打ち出した。

話を短くするために私の感じているところから述べよう。要は、これはアメリカ流の「巨大アグリビジネスへの依存」をやめて、小さな農家・企業・消費者が、自然環境と一体となり、共に持続可能な食料システムを構築しようとする戦略なのだ。アメリカ流のやり方なら広大な農地を巨大企業が独占して、「アグリビジネス」による食物戦略が行われる。それは第二次大戦後、今に至るまで同じ「化学薬品と彼らの提供する種」による農業だ。それは世界の農地を破壊するばかりだ。広大な農地を機械で植付・収穫し、被覆作物もなくて土は雨に流され、土は養分を失ってカチカチになっている。そのため土壌は農業すらできないただの無機物の荒れ地になっている。

今、世界の農業で見直されつつあるのが「土」だ。「土」は無機物なんかではない。たくさんの微生物と共生する「有機物」の場なのだ。実際に収量の多い「豊かな土」とは、多種多様な微生物の生息している土だと理解されている。その「土」を守れるのはどちらか。答えはおのずと明らかであるだろう。同じ農地でも作物の収量は4~5倍違う。日本は政府がその先棒を担ぎ、メディアも無批判にそれを伝えるので、特別意識しない人なら必ずアメリカ流の農業こそが未来の形だと誤解している。狭い農地ではダメで、目新しい農薬、化学肥料、遺伝子組換え作物を受け入れるのが普通と思っている。有機無農薬というような持続可能な農法は、まるでお伽話のように扱われる。

しかし現実を見てみよう。世界の56%の食料は小さな農家によって生産されており、土を痛めつけない農法のおかげで豊かな土地が日本に広く広がっている。そのメルクマールになるのが土壌微生物の多様性と数だ。日本の農地は著しく高い。多くの人がお伽話として認めようとしないのに、その実、足元の農地では豊かな土が維持されているのだ。ところが農民でない人たちは農家の懸命な努力を無視して、農家のためだと言いながら土から生命を奪う農業を支持している。このままでは世界中の土が壊されてしまうというのに。

アメリカ流の農業は、除草剤の効かない「スーパー雑草」の登場に困り果て、農薬の人体に対する加害に巨額の賠償金を払いながら、世界中の農薬を集めてはそれに耐性を持つ遺伝子組み換え作物を作り、種から農薬、化学肥料に至るまで独占しようとしている。


それに対抗しているのがEUだ。例えば国連では、2017年の国連総会で、2019年~2028年を国連「家族農業の10年」として定めた。そして加盟国及び関係機関等に対し、食料安全保障確保と貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たしている「家族農業」に係る施策の推進・知見の共有等を求めている。これこそ「巨大アグリビジネスの世界支配」に対するアンチテーゼだ。地域の小規模農民は世界のマーケットの中では本当に小さな存在だ。しかし人々の食料供給には欠くことのできない存在だ。日本はアメリカの手先なのでわからないかもしれないが、現実に今も「家族農業の10年」の真っただ中なのだ。

この流れの先に、「Farm to Fork(農場から食卓まで)」の戦略がある。小さな農家・企業・消費者が、自然環境と一体となり、共に持続可能な食料システムを構築する戦略こそが必要なのだ。

林業でも農業でも、日本は世界一の最先端の技術を持つ。ただ政府だけが三流で理解できないだけで。私たちはどちらに進んだらいいのだろうか。

日本はまさに宝の持ち腐れだ。人々が自分でもっと学ぶようになれば変わるのだろうか。有機農法でも持続可能な林業でも、世界一優れた仕組みを持っている。きっとそれは自然から学んでいるからだ。人々がもっと現場を知れるようになれば変わるだろう。

庭で小さく菜園を始めてみた。小さなコンポストを入れてから家の生ごみがなくなった。その小さな試みが「Farm to Fork」の第一歩なのだ。

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