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岡山市の沿岸地域を「アマモ場」に|田中優コラム #231

最近、大学の非常勤講師の定年年齢を勘違いしていたことに気付いた。すでに常勤の仕事は退職して、年金を受給しているのだから生活上の問題はない。ただ参加するかどうかの問題だ。実はこれまで大学の非常勤講師は65歳までだと思っていたから、今年で終わりだと考えていた。
 
しかしよく聞いてみたら70歳が定年だそうだ。迷ったが引き受けることにした。その前は60歳だと勘違いしていたから、計10年も長く勤めることになってしまった。しかしそれも良い機会かもしれない。給与は安いから受け取っても心は痛まないし、何より授業をするために、調べることも準備することも気は抜けない。ついでにオンライン授業が主だから、漫然ともできない。すると自分の興味のまま、緊張感を持ったまま調査が続けられる。それはとても良い機会なのではないだろうか。

 
実は大学の授業でも地球温暖化問題をテーマにしているから、まさに自分が興味のあることの延長だ。支障があるとすれば後進の人の邪魔になることだが、後進の人の邪魔になるほどの給与ではない。ならば私がそこに塞がっていてもさして支障になりはしないだろう。
 
前々回に書いたゴミ問題の分析も、この授業をするために調べていて分析したものだ。まるで趣味と実益を兼ねたような仕事ではないか。そこでもう一つの事例を調べたので、ここで紹介しておきたい。
 

瀬戸内海はブルーカーボンの住処


それは「ブルーカーボン」と呼ばれる海草などが吸収してくれる二酸化炭素の吸収・蓄積の話だ。実は岡山県というのは瀬戸内海に面していて、ここには広大な海水面がある。しかも光合成で炭素を吸収するのだから、海表面から「海の光が1%以上は届く水深まで」しかできず、外洋では50-200mだが、沿岸では2-30mの範囲でしかない。浅い海はそれだけ濁っていて透明性が低い。ただ「ブルーカーボン」にとっては、浅くて栄養分が豊富な沿岸部こそが有益な場なのだ。あの熱帯の恐ろしく透明度の高い海ではなく、このやや濁った身近な栄養豊富な海こそが、ブルーカーボンの住処なのだ。
 
このブルーカーボンの炭素蓄積量は、森林と比べたらその8分の1しかないとされる。しかし海の水面下の土地は他の工作物に邪魔されることが少ない。つまり土地のように人の支配を受けにくいのだ。ならば周辺の人の力で変えられるかもしれない。

海の「ブルーカーボン」は、もとより枯れて溶け出すと養分が海水に流れ出てしまって陸地のようにカーボンを蓄積しにくいと言われる。それを調べてみると、水産庁が調べていた。それによると海底に植えたアマモという海藻の捕えた炭素の3分の1は分解されるが、残りの45%がアマモ場内に、22%が場外に蓄積されるそうだ。つまり捉えた炭素の3分の2は海底に蓄積される。森林と比べたらヘクタールあたり8分の1の量だが、それでも陸地と違って所有権に邪魔されることが少ない広大な面積を持つ海だ。陸地の8倍の面積を確保できれば同じ炭素蓄積量になる。

そのときこの瀬戸内海は面白い、もともと氷河期の海が凍って今よりずっと海の水位が低かった頃、瀬戸内海は陸地だった。そこに川が流れていたのが瀬戸内だった。おかげで今も水深は浅いのだ。そこを「ブルーカーボン」にできないか。広さは全体で23,200キロ平方メートルあり、広島県の2倍の面積がある。その内のほんのわずかでいいから「ブルーカーボン」のために使ったなら、それだけ炭素を吸収し海の生物の揺り籠になる。

すでに備前市日生では、35年以上前から海に「NPO法人里海づくり研究会議」が主体となって、里海づくりのために「アマモ」を植えている。近くでよく獲れる「カキ殻」を使って海底の底質改善をしている。その努力もあって、「アマモ場」の面積を1985年の12ヘクタールから、2015年には250ヘクタールまで回復させている。最盛期に比べればまだまだだが、着実な回復を見せている。この面積で蓄積される炭素量は、岡山市の年間二酸化炭素排出量が329万トンの0.1%ほどでしかないが、広さはまだ無限に近くある(瀬戸内海はこの約一万倍の広さ)。

この瀬戸内海のわずかでも「アマモ場」にすることができたら、それだけで市内で排出される二酸化炭素排出量を吸収固定することができる。「ブルーカーボンの導入」を実現したら、海に面している岡山市をゼロカーボンにすることも可能なのだと思うのだ。


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