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【田中優】市民活動の変遷|脱原発、リサイクル、バンクの設立


前回のつづき

熱帯林や途上国へのツアーに始まり、視野は広く全地球レベルまで広がった。ブラジル会議で「ピースボート」のメンバーたちと知り合い、以来、年に2〜3回はピースボートの船旅に誘われた。おかげで有給休暇のすべてはそこに使うことになり、他に休むことはないようになった。おかげで世界中を回ることができ、リアルに世界を感じられるようになった。

【環境問題を自分ごとに】
反原発からリサイクル運動まで


私にとって環境問題は1986年のチェルノブイリ原発事故に始まり、そこから様々な環境問題へと視野が広がっていく過程だった。ぼくとしては原発問題は誰にも関係する大きな問題だった。しかも事故が起こることは確率的にも時間の問題で、この火山や地震の起こる日本を襲うことは必然に思えた。
 
ところが原発の危険性を多くの人に知ってもらうのは本当に難しく、人々の毎日の暮らしとの距離が遠く、問題を共有することは不可能に思えた。だから私たちはもっと身近で毎日関わるようなことから伝えたいと思った。
 
そこで「毎日」「身近」な問題として「ゴミ問題」を選んだ。その頃はまだ「ゴミ問題」はおろか「リサイクル」という言葉すら一般的でなかった。そこで「電気の缶詰」と呼ばれるほど電気を消費して作られるアルミ缶のリサイクルを始めた。

当時、リサイクルといえば、「牛乳パック」の紙類の方が一般的だったが、それを集めてリサイクルしている町内会や少年野球チームもあったから、その妨げにはなりたくなかった。そのリサイクルは折からの「ゴミ問題ブーム」の追い風もあって、運動としてはとても大きく広がった。
 
折りに触れて「原発問題」を伝えたが、仲間は増えたものの「反原発」というムーブメントにはつながっていかない。身近なことはいいことだが、そこまでの道筋を示すにはどうしたらいいのか、それがネックだった。

【お金の流れを変える】
「どうして郵貯が行けないの?」から未来バンク設立まで


環境問題の活動を足元からローカルに始めていったが、視点は少しずつ広がっていった。
 
ある時、記事中で原発の資金源が「郵貯」であると書いてあった。子どもの頃から慣れ親しんできた郵便貯金が資金源であったことは驚きだった。調べてみると僕が気にしていた日本の戦争の資金も、「政府開発援助(ODA)」の資金も、原発やダム等の開発資金もそこが元手だった、要はぼくが気にしていたカネの出所はことごとく郵貯が資金源だったのだ。
 
ぼくたちがなにげなく貯金しているお金が、知らず知らずのうちに、実は、戦地に爆弾を届けることにつながっている。ODAとして、途上国や地方に届くのはいいが、そこで豊かになるのは地元の人ではなく先進国の企業だった。
 
私たちの貯金しているお金がどんなことに使われているか。そのような問題を知ってほしくて「どうして郵貯がいけないの」という本を江戸川の市民活動グループで出版した。

そうなると、私たちが気にしている社会問題を掘り下げていくと、私たちが資金供給していた、ということになる。被害者だと思っていたのに、本当は加害者で、資金提供者であったのだ。

ぼくたちは、口では戦争反対とうたっていても、おカネでは戦争を支援していることもある。そのことを知らなければいけない。

この事態を知って困り果てた。資金提供をする加害者のままではいたくないと思った。

 
しかし相手は税収の数倍という巨大な資金源で、太刀打ちできる相手でもない。そこで少なくともそれに気づいた人たちだけでも、別な資金の流れを作っていきたいと思った。
 
今でいえば「城南信金」や「労働金庫」もあるが、当時は「労働金庫」はあったものの、他の金融機関は利益のためなら何でもする体制だった。
 
特に当時すごかったのが消費者金融への金融機関からの融資で、いわゆる「サラ金」に資金を融資していた。その頃の「サラ金」は今よりはるかに高利で、融資した資金が焦げつくと、その人を死なせて死亡保険金で返済させたりしていた。だからそのために融資を受けていた人が死ぬと、サラ金は祝杯をあげるほどの状態だった。
 
私自身は生活保護のケースワーカーをしていて、この家に嫌がらせの張り紙を見ることも度々あった。その時には受給者に代わって「生活保護は必要最低限の資産しかなく、返済は困難だからあきらめてもらうしかない」とサラ金業者に伝えていた。さらに自己破産の要件も満たしているからと、実質的な交渉もした。
 
こうしてぼくは公務員にして「サラ金問題を解決できる唯一のケースワーカー」となった。もちろん区が雇っている弁護士に相談した上でのことだ。
 
このようなお金の流れがあることなど、誰が知っているだろうか。だが、知らなければ、知らないうちに誰かを傷つけることに加担している可能性があるのだ。

 
銀行に預けたお金は、銀行の金庫に眠っているわけではなく、銀行がそのお金を運用しているわけだ。だからその運用先を知り、変えていく必要があった。社会にその他の選択肢を示す必要があると感じた。
 
そこで仲間と一緒に1994年に立ち上げたのが「未来バンク事業組合」(現在は正式名称「未来バンク」)だ。日本で初めての市民でつくるNPOバンクだった。

未来バンクは市民の出資で成り立っている非営利のバンクだ。これまで一度の赤字を出すことなく、健全経営を続けている。今では出資者は500名を超え、1.8億円の出資がある。
 
融資には条件があり、「環境保全や福祉の向上、地域課題の解決など、市民やNPO団体・法人による社会的有用性の高い事業や取り組み」に対してしか融資をしない。そこに賛同してくれる人たちが出資してくれているのだ。
 
もちろん、天然住宅に関する融資は対象になる。家を建てることが、環境保全につながるからだ。今までにも天然住宅の建主の資金需要を支えたり、植林のための無利子融資を実現したりすることができた。(次回に続く)

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