(前回の続き)
有害化学物質のせいで勝手にヒトの遺伝を壊されたくない。そう考えるなら従来の「ADI(一日摂取許容量)」や「TDI(耐容一日摂取量)」では足りない。全面的に生産から禁止するしかない。頭の固い学者たちも時間の問題でこれに取り組むことになるだろう。
しかし私たちの暮らしを考えると、今すぐに対応しなければならない。食べ物の「有害化学物質」を摂らないことは意識的にするなら多少はできる。衣類も同じだ。すると特に問題なのは、ほとんど毎日そこで暮らし、生活する場である住まいが問題だ。現実に私たちが空気を経由して摂取しているものを含めて計算してみると、住まいの中の有害化学物質が第一位なのだ。眠っていても呼吸で取り入れるので、住まいを安全な場にすることは第一に重要だ。
そして意識すれば回避できる有害化学物質もまた拒否した方がよい。なにせ相手は濃度の問題ではなく、たった一度の遭遇で「内分泌ホルモン」をかく乱してしまうのだから。
私たち天然住宅は、気にしすぎるほど建物の素材にこだわっている。木材はおろか、その育つ森にすら有害化学物質を入れない。普通は森に除草剤を撒いたり、マツクイムシ対策にネオニコチノイド薬剤を散布したりするのだ。それもしないし、木材を薬品に漬けることもしないし、木材を乾燥させるときに木材の組織を破壊しないために、リグニンが崩壊する温度(80℃程度)より高い温度にしない。そして木材が本来持っている抗ウイルス効果や殺菌力を失わせないようにしている。知らなければ「気にしすぎ」と言われそうなほどだが、そこまでして安全性を確保している。
その先に必要となるのが「完全有機無農薬」の食材だ。しかしこれは自作しなければ達成できない難しい課題だ。日本では次々と農薬使用などの基準が緩和され、一方の「有機農産物認証」は厳しいのだが、登録・記録などの手間が多い上、費用が掛かりすぎて有機農家が簡単には使えないようなものになっている。
しかしこれをそのままにするのではなく、この「有機農産物認証」の認証機関自体を自治体が資格登録したりして低廉化をめざしたり、「有機」という言葉は使えないものの、地域の人たちの信頼から「参加型認証」を作ろうとする動きもある。
参加している人たちの信用力から「地域ラベル」を作っていってはどうか。天然住宅の建主さんたちのつながりは強く、しかも互いに信用力があるから、天然住宅に住む人たち自身が作った作物を「天然住宅ラベル」を作って販売し合うネットワークを作ってはどうか。それなら互いの信用のおかげで安心して摂れる食品ができる。
元々大きなネットワークではできないこともあるし、零れ落ちる価値もある。それがために小規模な生協などが絶え間なく生まれてきた。小さな個人が信頼できる「輪」を広げていくことが新たな安心を作ってきた。
そんな形で対策することで、この「偽ホルモン(内分泌ホルモンかく乱物質)」問題に対策していくことができるのではないか。私はこうした小さなつながりの信用力に大きな期待を抱いている。
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