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地球の歴史とブルーカーボン|田中優コラム #234

前回の続き

こんな森林が二酸化炭素を吸収してくれていることを調べると、本当に自然の力は素晴らしい。そして私たち人間もまた他の生物と同じように、地球という惑星の環境に影響を与えながら、惑星の環境に影響を受けながら生きている生物のひとつなのだ。
 
そうした惑星大の視線で見ると、地球は「スノーボールアース」と呼ばれる「全球凍結」した氷の惑星の時代もあったし、灼熱の惑星だったこともある。生物にとってはものすごく振幅の大きい惑星であり、それでも生物を生き延びさせた惑星でもある。

この「スノーボールアース」と呼ばれる「全球凍結」した氷の惑星が、どうして再び生命の惑星に戻ったかについてはいくつかの説があるが、その直後に起きたことはほとんど異論がない。生命は新たな進化を遂げて、活動の場を広げていった。生物が爆発的に進化したのは、この「スノーボールアース」が解けた後だった。全地球を覆っていた氷が解け、海面に直接日が当たり、海中の光合成生物が大繁殖し、酸素濃度が高くなったことにより止まっていた進化の歯車が再び動き出したのだ。この全球凍結という事態は少なくとも二度起きている。最初の回で原始的だった海中の微生物は真核生物に進化し、二回目を経て多細胞生物化、巨大生物化した。そのような進化には海中で光合成する「シアノバクテリア」の働きが欠かせなかった。
 
その海中で光合成する「シアノバクテリア」が炭素を吸収して酸素を生み出し、酸素濃度を高めていたと思われる。また、その光合成を妨げていた「全球凍結」が溶けて光が降り注ぎ、全球凍結で閉じ込められていた栄養塩類が海中に広がった。当時、ほぼすべての生物が海中に生育していたが、この環境が彼らを育んだのだ。
 
要は地球に酸素があって生物が呼吸できるのも、進化できるのも、シアノバクテリアが元になった光合成のおかげなのだ。そう考えると光合成し酸素を生み出せるのは森林だけではない。というよりもともと生物が住んでいた場所は海中なのだ。この海中にいる光合成できる生物たちにも光を当てないと地球の炭素と酸素の話はできないのだ。

しかし海中の微生物や海藻が生育できるのには条件がある。もちろん海底に閉じ込められた栄養塩類がなければならないが、それ以上に光が降り注がなければならない。光合成が可能になる光が1%以上届く範囲は、近海のような濁りのある海域では水深2~30メートル程度、澄んだ遠洋では水深50メートルから200メートル程度までと見られている。このような水域では生物が光合成をすることが可能になる。
 
そして海中の光合成生物の場合、死んで分解すると再び海中に溶けると考えられるので、炭素が貯留するのかという疑問もあった。しかし現在では日本の水産庁が調査した結果、分解するのは三分の一で残る三分の二は沿岸や深海域に亡骸とともに堆積するということが分かった。森林の炭素吸収だけでなく、海洋の光合成生物の炭素固定も相当な能力があるということだ。
 

カーボンニュートラルを実現する
ブルーカーボンの可能性


さてそうなると、二つ疑問がわく。一つ目は「スノーボールアース」後の光合成生物を育むための環境をもたらした要素は何なのか。もう一つはそれが地球温暖化防止に評価されているのかだ。

まず一つ目、「誰が光合成したのか」といえば、海中に漂うシアノバクテリアだが、それを育む土壌は何だったのか。

この時思い浮かぶのがよく塗り壁に使われる珪藻類だ。「珪藻土」というのは化石状になった「珪藻」だ。しかしこの珪藻は重量があるので近海以外に広がれるかどうかわからない。その生活史の一部を占める「休眠胞子」の「休眠期」には大陸棚に生育することが多い。したがって海の「湧昇流(ゆうしょうりゅう)」に乗らない限り深海からは光合成できる環境へは戻って来れない。海面近くの光の届く場所に繁殖できたものは他になかったのか。
 
よく似た単語だが「藍藻類」なら海に漂っている。私たちがよく目にする「赤潮」とか「アオコ」と呼ばれるようなものだ。「スノーボールアース」後今から25億年前の海には、この「藍藻類」が爆発的に増えたらしい。

このアオコもまた光合成して炭素を吸収して酸素を排出するから、海の中だけでなく大気中も酸素だらけにし、オゾン層も作り始めた。それが5億年前の生物の上陸に繋がっていった。

このブルーカーボンもまたまだ国際的には認められていないが、地球史では生物の存亡を左右したほどの事態だ。無視したままというわけにはいかないだろう。これを考慮の中に入れると、地球温暖化の問題は、少なくとも日本では対処可能な範囲になると言えるだろう。
 
もう一つの疑問だが、前回述べた「HWP(伐採木材製品)」さえ2011年まで認められていなかったのだ。海の吸収能力は各国が任意で適応する範囲にしか認められていない。2015年のCOP21 パリ議定書でも「自国が決定する貢献案」として認められるだけだった。前述のようないわゆる「ブルーカーボン」は、まだ「温室効果ガスの吸収源及び貯蔵庫」となりうることの科学的根拠が国際的に認知される途上にある。つまり(下図)のように水産庁が調査した数字(ブルーカーボンとして蓄積された炭素の三分の二は海底に蓄積される)は、再び「3.5%が上限」という壁に当たって無視されているのだ。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime/52/6/52_705/_pdf/-char/ja

ただしそのためには一刻も早く、対策不可能な排出レベルにある石炭火力発電所を廃止することだけは必要だ。しかし残りなら瀬戸内海で現実に行動されている「アマモ場」の復活などにより対処可能だろう。瀬戸内海はかつて陸地だったように浅瀬が多く、広さは広島県一つ分ある。これを「アマモ場」として復活させるならば、おそらく2050年までにカーボンニュートラルも可能だと思う。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/pr/pamph/pdf/21-25mobahigatahyouka.pdf

絶望的だと思われている環境問題にも、希望はある。

あきらめて手を止めずに、ベットしてほしい。顔を上げれば選択肢はまだあるはずだ。
 
 

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