・お話を伺った人
神奈川県大磯町在住Yさん
会社員の夫、専業主婦の妻。8才と4才の姉妹の4人暮らし。奥さまは天然住宅元スタッフの友人。第一子出産後にシュタイナー教育と出会い、長女はシュタイナー系の幼稚園へ。土地探しを経て、2017年に神奈川県中郡大磯町に天然住宅を建築。最近の楽しみはご近所さんとの畑活動だそう。
日々の安心感をつくるもの
Yさんの家を訪問するのは、今回で2度目です。以前も同じことを感じたのですが、室内に入るなり、何か大きなものに包まれているような、守られているような、何とも言えない温かさを感じました。同席したスタッフも同じ印象を抱いていて、その正体はいったい何なのだろうと、顔を見合わせました。
いくつか気づいたことがあります。
一つ目は、壁の色。Yさんの家の壁は漆喰塗りですが、一般的な白色ではなく、うすいピンク色をしています。これは「お母さんの子宮の中の色」をイメージし、奥様がリクエストしたんだそう。
二つ目は、部屋の広さ。リビングダイニングは合わせて約10畳とけっして広くはありません。でもだからこそ、子ども達の声や気配が常に感じられる絶妙な距離なのではと思いました。
三つ目は、空間のしつらえ。リビングには絵本や木のおもちゃがいっぱい並んでいます。壁や窓には子ども達が描いた絵や作品が無造作に貼られています。優しい色のカーテンや、素朴なモビールなど、どこを見ても優しさで溢れていました。
「あぁ、もし自分がこの家の子だったら、この空間はきっと安心するなぁ」と思いました。家全体が、まるで自分の味方のような気がして。それくらい、子ども達の存在をそこかしこに感じることができました。
一方で、こんな興味もわきました。
Yさんの家ではおもちゃの片づけはどうしているんだろう?と。
最近は小さなお子さんがいてもすっきりと暮らされている方も多く、私自身、そういう暮らしに憧れていました。
ですがYさんの家は、一見逆のように見えたのです。
奥様のTさんにおもいきって聞いてみました。少し恥ずかしそうにこう答えてくれました。
Tさん:
「我が家は物が多いし、散らかっていますよね。以前は私自身、断捨離やミニマリストに憧れたこともありました。でも今は、片付けを覚えさせることより遊びに没頭できる環境を作ってやることを大切にしたいと思っています。自分の子に限らず、子どもが家に入ってきた時、すぐに好きな遊びにとりかかれるって、嬉しいじゃないですか。だからざっくりとした物の定位置は決めていますが、おもちゃ類は常に出しっ放しです。もちろんいつか片付けを教えなきゃいけない日は来ると思いますが、今はその時期じゃないと思ってるんです」。
私はこの話を聞いた時、ひとり目からウロコ状態でした。
そうか、そういう考えもあるのか!と。リビングは子どもが気の赴くままに遊びを広げられる空間。今はそういう時期だと決め、大切だと思うことを実行している。そんなTさんの考えが素敵だと思いました。
子ども達の存在が、溢れるほどに感じられる家
▲いつか家を地域の図書館のようにしたくて、読まなくなった絵本も大切にとってあるそうです
しかし、物がたくさんあって広がっている状態でも、不思議とごちゃごちゃとした感じがしないんです。むしろ色のトーンにまとまりが感じられます。
それにはおもちゃ選びが関係していました。
Tさん:
「シュタイナー教育と出会ってから、おもちゃも自然素材のものを選ぶことが増えました。一般的なおもちゃに比べると高価なので、頻繁に買うことはできませんが、誕生日プレゼントにひとつずつ増やしていくなど、時間をかけて集めているものもあります。娘たちだけでなく、私自身も好きなんですよ」。
▲収納棚の上も遊び場です。
壁の色、木の香り。やさしい色のおもちゃ、子どもたちの声や気配、普段の暮らしの中で何気なく描かれたであろう落書きや、ちょっとした作品。
子ども達の存在が、溢れるほどに感じられるこの家は、彼女達が心から安心できる居場所。それはふたりの穏やかで満たされた表情からも感じられました。
そして私は少し反省をしました。
片づけ本ばかり読んでは、見た目のきれいさばかりにこだわろうとしていた自分に気づいたから。もちろんそれも大切なことだし、暮らしの中で、子どもに片付けを教えることは必要なこと。
だけれど、「今、この子にとって必要なことは何だろう」という視点で、私は考えられていたのだろうか。単にすっきりとした暮らしに憧れていた自分の理想を、子どもに押しつけてはいなかったか。同じすっきりとした空間をめざすにしても、視点をどこに置くかはとても大事なことなんだ。そんなことを思い、自分の暮らしを少しだけ見直したくなりました。
▲お子さんが描いた絵を表札の挿絵に。
▲郵便ポストの上には近くの海岸で拾った貝殻が。お子さんの気配はこんなところにも。
次回は、Tさんの妊娠中のこと、子育て期の悩みについて伺っていきます。お楽しみに!